「慢性うつ病は必ず治る」 緒方俊雄著
近年、優れた抗うつ薬が開発され、うつ病は投薬や休養によって治る病気との認識が広まった。だが、全てのうつ病が解決したわけではない。うつ病者の1割強は再発を繰り返し慢性化している。長期化するほど、うつ症状だけでなく躁状態や自殺願望も現れやすくなり、本人も周囲も疲弊していく。
臨床心理士・産業カウンセラーである著者も、様々な精神疾患の中で最もカウンセリングで苦労したのがこの「慢性うつ病」と告白する。
本書は、著者が試行錯誤の中、自身の経験を基に見出した独自のモデルとカンセリング法をまとめた一冊。著者が取り扱った慢性うつ病者は、カウンセリングが終了して3年以上経過しても再発していないという。うつ病を繰り返し悩む本人だけでなく、慢性うつ病者を抱える家族や企業にも一読の価値がある。
著者はまず幼少期における母親(養育者)との関係性から人間関係のパターンを独自に4分類し、このモデルを使って慢性うつ病を説明。「人間関係の構築」「悲しみと怒りの感情の表出」「慢性化させている要因の受け入れ」「脅迫的な考えの消失」の4段階を経て治るとしている。うつ病やカウンセリングの基礎知識を始め、「新型うつ病」など最近の傾向も絡めつつ平易な言葉で解説されているのでわかりやすい。
だが、重要なのは理論や知識ではない。ここで説明されるモデルは、あくまで適切なカウンセリングを行うためのロードマップに過ぎない。著者はジャーナリスト・むのたけじの「夜のおわりに朝がくる。しかし、夜明け直前の闇は最もくらい」という言葉を2度も引用し、「自分を変える」という強い信念を持てば慢性うつ病は必ず治ると断言する。
8人のカウンセリング事例により、その主張は説得力を増している。親子や夫婦間の葛藤、強い自殺願望やアルコール依存など、それぞれ異なる慢性うつ病者の克服過程が丹念に描かれているのだが、読み進めるうちに本人の「変わろうとする気持ち」がいかに回復にあたって大切かが見えてくるはずだ。
同時に、日々何らかの行き詰まりを感じている人にとっては、理不尽な人生を上手に受け入れていくヒントが隠された“再生の物語集”としても読めるだろう。特に乳がん再発の不安を乗り越えた女性の事例は、生きることの意味を考えさせられ目頭が熱くなる。
著者の経歴もユニーク。大手電機メーカーに21年間も務めていた。半導体レーザの研究開発に携わっていたバブル期に、「これだけ物が豊かになったのに、人はさっぱり幸せになっていない」と感じ、カウンセラーになる決意をしたという。社会人としての経験や感覚を随所に盛り込み、うつを予防するノウハウも紹介している。ストレスが溜まっていると感じるビジネスマンにも本書を是非おすすめしたい。
幻冬舎新書 798円
(フリーライター:佐藤ちひろ =東洋経済HRオンライン)
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