日本発Netflix「忍者」物語の海外ウケ仕掛け術 賀来賢人原案の完全オリジナル「忍びの家」

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ちなみに主演の賀来が原案を練ったそうです。賀来は共同エグゼクティブ・プロデューサーとして製作陣にも名を連ねています。一見、役者の名前を借りただけのケースに思えますが、作品を見れば、それだけでないことは一目瞭然です。相撲界を描いた「サンクチュアリ-聖域-」に続いて、日本ならではの題材で独創性に溢れたオリジナル企画がまた一つNetflixに加わったという理解に変わります。

監督はロス在住のアメリカ人

そもそも忍者と言えば、世界中でヒットする漫画・アニメの「NARUTO-ナルト-」があり、今後オリンピックの障害物レースになる長寿番組の「SASUKE」(TBS)は海外では「NINJA WARRIOR(ニンジャ・ウォリアー)」として知られ、遡るとハリウッド俳優のショー・コスギが出演した映画『燃えよNINJA』は80年代にアメリカで忍者ブームを起こしています。忍者の可能性は確かなもの。世界的な反応を当然、期待したくなります。

Netflixの発表(2月22日)によると、2月15日の配信開始から1週間、「今日のシリーズTOP10」にランクインした国の数が92か国に上ったことがわかりました。またNetflix週間グローバルTOP10 ランキング(2024年2月12日~18日集計)では世界2位(非英語TV部門)をマークし、幅広い地域で成績を残していることも注目に値します。国別の結果をみると、日本、アメリカをはじめ欧州主要各国、アフリカ、アジアと幅広い地域で週間TOP10 入りし、その数全71か国。しかも、日本で達成できなかった週間1位をジャマイカとナイジェリアで成し遂げています。

忍者の可能性をかけたであろう製作体制も抜かりがありません。賀来をはじめとする日本人で構成される製作チームの原案をもとに、Netflixがストーリー開発と共同脚本、監督を依頼した人物はアメリカで生まれ育ったロサンゼルス在住の監督兼脚本家。インディーズ系の映画でこれまで実績を作ってきたデイヴ・ボイル監督でした。日本人以外の視点を取り入れることを狙ったのは明らかです。

ボイル監督に直接その意図を尋ねると、「誰が見てもわかるような作品にしたかった。家族ドラマをベースにした忍者の物語を描くことで、世界に出やすくなるのではないかと、そんな思いもありました」と答えが返ってきました。

「現代の日本に生きる忍者の家族ドラマを描くことで、世界に出やすくなると思った」と語るロス在住のデイヴ・ボイル監督(画像:Netflix)

ご本人曰く、脚本づくりと撮影のために来日した際、日本での撮影も日本の長期滞在もその時が初めてだったそうです。新鮮な視点が加わったことを裏付ける話になります。なかでも、ボイル監督の独自のアイデアは劇中で使われる音楽に象徴されています。アメリカのテレビ、映画界でサウンドデザインを手掛けるジョナサン・スナイプスに劇伴音楽を頼み、場面によって敢えて印象を変えています。

そして、1話のラストで流れるのは60年代結成のイギリスバンド「ゾンビーズ」の曲「Nothing’s Changed」です。どうしてこの曲だったのかというと、「時代を感じさせないタイムレスなものにしたかったから」。ボイル監督はそう答え、「何百年も続く存在の忍者が現代に生きるストーリーだからこそ、時代を超えた雰囲気を作りたかった」と説明してくれました。

時代にもジャンルにも縛られない作りは単調さを排除する効果を生み出しています。ボイル監督の言葉を借りて世界観を表現すると、「あなたの隣に座っている人は、もしかしたら忍者かもしれない――」というもの。そんな想像まで楽しめてしまいます。

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長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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