日本が後れを取る「医療通訳」外国人には死活問題だ 今後増加する「外国人旅行者」への対応も必要

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在留者のみならず、今後増加する旅行者への対応も必要だ。旅行者の訪問先が変化している。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2023年と2019年の同時期を比較すると、福島県や栃木県、山口県など地方都市を訪れる外国人旅行者数が増加している。

旅行者は、前述の在留者より医療機関に対する知識は乏しいだろう。3大都市圏以外の医療機関でも外国人の救急受診が増加することが予想される。119番通報を受ける消防が訓練を行っているとの報道はしばしば見かけるようになったが、医療機関も対応を変えるべき時が来ているのではないか。

歴史上移民で成り立ってきたオーストラリアでは、費用負担なく通訳サービスを受けられるシステム「コミュニティー通訳」を整えている。コミュニティー通訳とは、例えば行政で手続きをするとき、何かの契約をするとき、または警察に捕まったり裁判を受けるときに、気軽に利用できる通訳サービスのことだ。医療も当然だが、言葉がわからないことは著しく不利となる。

日本での医療通訳はボランティアから始まった

日本では、医療通訳はボランティアの手で行われてきた。神奈川県のMICかながわ、京都府では多文化共生センターきょうとなどが派遣型の医療通訳を行っている。派遣型は、あらかじめ予定された時間と場所に赴いて通訳する。例えば、がんと診断されて手術を受ける前の詳細な説明などでは、隣にいて話をしてくれるので、心理的にも安心で、とても有用だ。インバウンド全盛の世の中が来る遙か昔から素晴らしい取り組みをされてきた方々には敬意を表したい。

しかし、派遣型では救急受診など急なニーズには対応できない。また、医療通訳にかかる費用を捻出する仕組みが出来上がっていないため、通訳者が受け取る報酬は交通費程度であり、医療通訳を生業とすることはできなかった。生業とならなければ、医療通訳者は増えず、医療通訳が普及することはない。

2014年頃、医療分野で新規事業のアイデアを探していた団体の理事たちに「医療現場で困っていること」についてヒアリングを受けた。

私は、外来診療をする中で、言語の壁が患者を正しい治療から遠ざけていることに気づいていた。「使いやすい医療通訳サービスが必要」と具体例を挙げながら説明した。

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