日本が後れを取る「医療通訳」外国人には死活問題だ 今後増加する「外国人旅行者」への対応も必要

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【具体例その1】

外来に通院していたフィリピン人女性は、以前から喘息と診断され、吸入薬を処方されていた。何度か受診するたびに聞いても「よくならない」と言う。彼女はタガログ語が母国語で、英語はそこまで上手ではないが、私も上手でない英語で詳しく話を聞いてみた。

結果として、息苦しさの原因はパニック発作であり、夫からの暴力が原因のPTSDだった。夫の帰ってくる時間=夜になると苦しくなっていたことがわかった。喘息は夜に悪化するため、日中の診察室で胸の音を聴いても喘息に特徴的なゼーゼーヒューヒューする音は聞こえないことが多いので、喘息を疑うのは無理もない。国際結婚では安易に離婚することは難しく、安定剤を処方して症状を和らげることとした。また、理解してくれる医師ができたことも彼女の不安解消につながったようだ。

【具体例その2】

インド人の子どもは夕方〜夜間に一家揃って受診することが多い。なぜなら、母親はヒンディー語しか話さず、日本語や英語が話せる夫の帰宅に合わせての受診となるからだ。これでは、インド人の妻たちは、夫が原因となっている心身の不調や、夫には話しづらい症状での受診ができないではないか、と私は感じた。

これから東京や京都だけでなく、日本の地方にも外国人が定着していく。よって必ずしもネット環境が良好でないところでも利用できるよう、電話さえあれば使えるのがいい。そして、英中韓だけでなく、日本においてマイナーとされる言語に対応する必要があると話した。

私の説明を理解し、課題に共感してくれたその理事たちは、その後、オーストラリアなどの医療通訳先進国の先行例をヒントに、電話やビデオで医療通訳を利用できる遠隔の医療通訳システムを立ち上げた。

医療通訳ニーズの高い外国語は

医療通訳で最もニーズが高いのは、第1世代の渡航者だ。ベトナムやモンゴルから来た人たちには、 先人たちによって形成されたコミュニティーがない。在日3世や4世が沢山いて、頼めばバイリンガルの人が付いてきてくれる中国語や韓国語の話者と環境が異なるのだ。若いベトナム人夫婦がスマホで調べながら赤ちゃんの予防接種の予診票を記入している姿を見ると、思わず手伝ってあげたくなる。

遠隔医療通訳を利用する際のクリニックでの流れはこうだ。日本語の話者ではない人が来院した場合、何とかして出身国と母国語を聞き出す。多言語で質問が書いてあるボードを用いて指さししてもらう方法が便利だ。受付の時点では医療通訳アプリに付随する機械通訳で済ませることが多い。

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