日本が後れを取る「医療通訳」外国人には死活問題だ 今後増加する「外国人旅行者」への対応も必要

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ナースが問診を取る際や、医師が診察室に呼び込む際に、アプリから電話やビデオで通訳者を呼び出す。多くの方は、リモートではあるが人間が翻訳してくれるサービスを知り、安心した顔をする。彼らの今までの医療受診では、症状の説明が通じない、受けている治療や処方された薬の内容について理解できないなど、数々の支障があり、不安だったのだろう。中には、こんなサービスが利用できて、とても感動した、と感想をいただくこともある。逆説的だが、日本で医療遠隔通訳がいかに普及していないかの表れでもある。

三方よしの医療通訳ネットワーク

ゼロからスタートしたサービスは、いまや32言語に対応するようになった。タブレット画面のボタンを押すだけで、英語、中国語、広東語、台湾語、韓国語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語、ミャンマー語、ロシア語、タイ語、ネパール語、ヒンディー語、モンゴル語、ラオス語、トルコ語、ペルシャ語、アラビア語、ウルドゥー語、ベンガル語、ダリー語、タミル語、クメール語、パシュトー語、シンハラ語、マレー語、インドネシア語、タガログ語、ウクライナ語の医療通訳者と現場を結んでくれる。

ステータスをオンラインにしている医療通訳者にコールがかかり、対応できる人が出て通訳をしてくれるシステムだ。通訳者は必ずしも日本に住んでいるわけではないので、言語によっては24時間の対応を可能にしている。これにより医療通訳者はどこにいても、ネットにつながりさえすれば働けるようになった。

そして、医療通訳者が食べられるようになるには、システムが利用され、お金を稼げることが必要だ。派遣型であれば契約するのは近隣施設だけに限られるが、遠隔であれば全国どこの医療機関でも利用が可能だ。そのため、全国から多くの医療機関や自治体・団体と契約をすることが可能となり、数多くの機関からの依頼を集約し、優秀な医療通訳者たちに仕事を振り分けることができる。

この仕組みにより、優秀な医療通訳者にも適切な報酬が支払われるようになった。求人サイトを見るとわかるが、医療通訳の給与は、ボランティアベースの頃に比べ格段に向上した。さらに希少言語では高額だ。おかげで、バックトランスレーション(日本語→多言語→日本語)などで誤訳がないか検証し、通訳の品質を担保できるようにもなった。

現在では、日本医師会や厚生労働省といった全国的な組織や各地の自治体等も遠隔の医療通訳サービスを活用している。例えば、日本医師会の会員が管理者である医療機関であれば、年間20回までの利用については医療機関の費用持ち出しはなしで医療通訳を利用できる。自治体によっては、自治体が費用負担することで、医療機関は費用負担なく医療通訳が利用できることもある。まさに患者よし、医者よし、医療通訳者よし、のシステムが出来上がったのだ。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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