内陸県に海を思わせる「八潮市」地名のナゾを追う 住民が守った日本唯一の地名"垳"は何と読む?

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うち1つが川にちなんだユニークな地名「垳」だ。「けた」と読みそうになるが、「がけ」と読む。日本国内ではここにしか存在しない地名で、由来は諸説あるが、川に由来するという。

江戸時代まで集落の南を綾瀬川の本流が流れ、その後、綾瀬川本流は改修されたものの「垳川」は残った。また、垳川は中川に合流する流れであり、垳川と中川に挟まれた垳地区はしばしば水害に悩まされた。現在も地区内には排水機場が置かれ、水害対策がされている。

そして、この「垳」は一時消滅の危機にあった。つくばエクスプレスの開業にあたり地区内が区画整理されたことにより、「青葉」「若葉」などに地名を変えようという動きが行政主導で起きたのである。

防災倉庫
「垳」の地名は住民の動きもあって残された(写真:筆者撮影)

しかし、これに対して住民有志から「垳」という地名を守る運動が起き、2012年の市議会には町名変更見直しの請願書が提出され、賛成多数で採択された。これにより、「垳」という地名は守られた。

工業化が呼び寄せたイスラーム文化

もう1つユニークなものとして紹介したいのは、八潮市内にパキスタン料理店が複数立地していることだ。

以前、蕨市を紹介した記事(「東京駅から30分、日本最小「蕨市」の知られざる魅力」)でも書いたが、埼玉県南部は単純労働者を受け入れる工場や作業場が多く、外国人労働者の受け皿となっている。

それは工場や倉庫が多く立地する八潮市でも同じく、現在外国人は市の人口の約4%(2020年6月現在)を占め、県内の自治体の中では上位だ。内訳の7割以上は、ベトナム、中国、フィリピン、韓国と東アジア圏4カ国の人だが、八潮市ではパキスタン人が独特の存在感を発揮している。

彼らは中古車ビジネスを営むため、1990年代から八潮市内に住み始めたとされ、市内に住むのは約150人(2020年6月現在)と数としては決して多くない。

ただ、パキスタンの国教であるイスラム教では様々なルール(イスラーム法)があり、特に食文化が大きく異なる日本でイスラーム法を遵守することは大変なことだ。

そこでイスラーム法を守った食事、「ハラルフード」を提供するパキスタン料理店が市内に複数出店することとなり、そこを拠点にパキスタン人コミュニティが形成されていった。

八潮スタン ハラール屋台村
ハラルフードを提供する食料品店とフードコートからなる商業施設「ハラール屋台村 八潮スタン」(写真:筆者撮影)

そして、2023年には八潮駅から徒歩10分ほどの場所に「ハラール屋台村 八潮スタン」が開業した。

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