理論や株価モデルは、その理論の信者が増えれば、物語が現実となる。多くの人がPBR1倍割れは上がると信じれば、ビジネススクールに通い、「株価は企業価値で決まる」という教科書の理論的理想郷を信じれば、その楽園の物語が現実化する。
MBA(経営学修士)という布教活動が広まれば広まるほど、その「企業価値教」は正しさを増す。これがMBAの力であるが、実はこれよりも影響力の大きい「教祖」はアメリカの有力投資銀行であり、有力投資家である。
彼らが買えば上がり、スピードも速く、規模も大きいから、布教活動で語られた物語は、すぐに実現する。「これからはBRICsだ」と唱えた瞬間に(実はその前から)、ブラジル、ロシア、インド、中国の株価は上がる。「原油価格は1バレル=200ドルでもおかしくない」と言った瞬間に、原油は最後の暴騰を見せる。
「新たな物語が次々と語られ、暴落で忘却」の繰り返し
「なんだ。中立的な記述でなく、お前こそ市場の物語を語っているではないか」と言われるだろうが、この物語が現実化しているのである。理論自体では何も意味を持たない。その理論を信じるものが増え、それに基づき投資する、買いが生まれるから、その理論の示す株価まで上がるのであり、この構造を利用する、ストーリーテラー(語り部)がいるのである。
行動ファイナンスという理論の信者がさらに増えれば、理論は現実をつくるための1つのストーリーのパターンにすぎないというストーリーが事実として、広く認識されるようになるのだ。
リーマンショックが起こり、株価が異常に下がれば理論株価などは無関係で、この理論、このメーターは機能しないことに誰もが気づく。しかし、人々は新しい前向きな物語を信じたいから、次の物語にすがっていく。量的緩和バブル、いや物語としては「流動性相場が始まる」という、いままで、企業価値と言っていた人々が、流動性という要は直接的な需給の支えのロジックを使うようになる。
そして、人々が投資を再開、拡大していくと「投資家のセンチメントが改善した、リスク許容度が上がった」という、理論では枠外とされているものを語って、株価を上昇させていく。
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