現在も、似た状況だ。日本株を買いたいと思う投資家たちの、買うためのエクスキューズ(言い訳)は、コーポレートガバナンスの改善、東証の圧力による株主還元の拡大であり、これは企業の事業モデルの変革でもイノベーションでもなく、株主への「見せ方」、プレゼンテーションの改善である。
つまり、見栄えが良くなっているだけであり、ブームに乗りやすいストーリーを見せているだけだ。それで流れは変わるのだから、株主や新規参入投資家にとっては素晴らしいのだが、中身が劇的に変わっているわけではない。もちろんまったく変化がない、と言っているわけではない。だが、中身の地道な改善や変化は、1998年のアジア通貨危機のときあたりから個別企業においてはずっと続いているわけで、何も2024年に新しいことが始まったわけではない。
株式市場はすべて需給で決まっている
これが株式市場の本質だ。株式市場は、すべて需給で決まっている。これは行動ファイナンスの本質でもある。冒頭から「株式市場の見通しを中立的に」と言っておきながら、為替の水準もPER(株価収益率)も、成長性も何も言及せず、需給の話しかしていないのは、原始的で、シンプルで、洗練されていない議論だが、それが現実だからだ。
株式市場とは、理論や情報をぶつけ合うところではない。欲望をぶつけ合うところだ。株式を買いたいと思っている投資家、買いたい状況にある投資家、彼らが、投資する理由を見つけるためのものが、理論であり、ratio(比率)であり、ストーリーなのだ。
まさにストーリーという言葉が象徴するように、それは投資家が夢見る物語にすぎない。PBRが1倍割れしていれば、解散価値が株式時価総額を上回るから、株主は解散すれば儲かるはずなのに、解散しないということは、今後の企業収益価値がこれを上回っているからであり、これは理論的におかしい。だから、PBRは少なくとも1倍までは上昇する、つまり株価は上がらなければおかしいから、上がるはずだ、という理論に力を部分的に借りた物語を信じようとするだけだ。
しかし、信じる者は救われる。その物語を信じて買えば、株価は需給に基づいて上がる。上がるという物語は真実のストーリーとなり、その物語を信じる人々が増え、それは物語から事実、ストーリーがファクト(事実)に変わる。株式市場は、投資家の願望(または恐れ)が自己実現する仕組みになっている。
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