復活『おっさんずラブ』長く愛される3つの理由 社会現象になった"初代おっさんずラブ"の続編

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とりわけ『おっさんずラブ』では、互いの好きな気持ちが時にすれ違いながらも最終的に結ばれるプロセスが、ディテール豊かに、そしてコミカルに描かれているのが特徴だ。そこには、徳尾浩司が言うように「少女マンガ的な表現」のエッセンスが生かされている(同記事)。

この『おっさんずラブ』のヒット以降、ドラマにおいて男性同士の恋愛を扱うことが例外的なことではなく普通になった印象もある。

たとえば、西島秀俊と内野聖陽の主演で、グルメドラマの要素を持つ『きのう何食べた?』(テレビ東京系、2019年放送開始)、「チェリまほ」の通称で親しまれ、繊細な心理描写も魅力の赤楚衛二主演『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系、2020年放送)、萩原利久と八木勇征の主演で、男子高校生の恋愛を描いた『美しい彼』(毎日放送。TBSテレビ系、2021年放送開始)など人気作・話題作が近年相次いでいる。

こうしたドラマ的表現の拡張において、オリジナル脚本ということもあわせて『おっさんずラブ』の果たした役割は大きい。

3人の演技合戦が生む化学反応

次に、魅力的な俳優の再発見がある。田中圭、林遣都、吉田鋼太郎にとって、この作品がさらに一段飛躍するきっかけになったのは間違いない。

主演の田中圭は、ここでも演技巧者ぶりを発揮している。長くバイプレーヤーとして活躍してきた田中は、演技の引き出しの多さが光る。ここでは、30代前半の男性サラリーマンでありながら少女漫画的ラブコメの主人公。男性同士の恋愛ということをおいても、難しい役柄だろう。だがそれをまったく違和感なく演じている。

仕事ではミスもするし、家でもずぼら。無類のお人好しでもある。だが、人一倍純粋で、つねに一生懸命であるがゆえに周りから愛される。田中はそんなキャラクターを状況に応じて巧みに演じ分け、魅力的に見せてくれる。時にはハイテンションではしゃぎ、時には相手に甘え、そしてここぞという大事な場面ではまなざしに真剣な力が宿る。

相手役となる林遣都は、まだ30代前半ながら俳優としてのキャリアは長く、そのなかで練り上げられた自然体の演技にいつも惹きつけられるものがある。しかも役に対する理解力の高さを兼ね備えているがゆえに、演じる役柄の幅も広い。

『世界は3で出来ている』(フジテレビ系、2020年放送)では、1人3役の3つ子役を達者に演じて高く評価された。一方、最近で言うと『VIVANT』(TBSテレビ系、2023年放送)などはまったく違う役柄だった。

『おっさんずラブ』では、春田の優秀な後輩という役柄。家のことはなにもできない春田に対し、きれい好きで料理もできる。そして春田に一途な思いを寄せる。そんな人物を林遣都は、ここでもナチュラル、かつ繊細な演技で造形している。時々ふとよぎる陰の魅力も林の真骨頂で、牧というキャラクターに深みを与えている。

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