ヒッケル氏の『資本主義の次に来る世界』は、資本主義の問題点を解決するために脱成長が必要だという説明が非常にわかりやすく、いろんな読者に伝わるように書かれていますね。
本書の特徴として、「アニミズム対二元論」という視点が打ち出されています。近代には、社会と自然、人間と自然、西洋と非西洋、文明と野蛮などの二元論があり、それによって近代特有の植民地支配、自然の支配、女性の支配などが行われてきたという世界観を示し、それを批判しています。
その上で、二元論を乗り越え、非西洋的な幸福の在り方を示す世界観を提唱しています。これは、ジェレミー・リフキンの『レジリエンスの時代』(集英社、2023年)でも打ち出されており、近年では、環境正義を論じる上で一つの基本的立場になりつつあります。
ただ、私自身は、この「アニミズム対二元論」には批判的な立場です。非西洋的な思想や先住民の実践から学ぶにしても、それをアニミズム的一元論として言う必要はないと考えるからです。
ヒッケル氏が推薦文を書いてくれた『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』(講談社、2023年)に書きましたが、気候変動を含めた環境危機は、どう考えても人間が引き起こしているものです。それを変えていけるのも、人間しかいません。
ですから、持続可能な社会に向けた公正な移行という概念そのものも、私は、常に人間中心主義から逃れられないと考えます。誰のための持続可能かと言えば、やはり「今の文明生活を送りたい」と願う人間にとっての話にならざるを得ません。
グローバルサウスの不等価交換
ヒッケル氏の議論においてアニミズムと先住民など、西欧批判とグローバルサウスの視点が強く出ているのは、彼のバックグランドの影響です。
かつて、資本主義はフリーマーケットに任せれば世界全体を発展させていくという非常に楽観的な議論が流行しました。
それに対してヒッケル氏は『分断The Divide』(未邦訳)という最初の本のなかで、世界銀行やWTOなどの国際機関が、グローバルサウスに構造調整プログラムを押し付けたことで、いかにグローバルノースが富を奪い、借金漬けにして、資源や安い労働力を奪っているかを批判したのです。
この本では脱成長の立場は打ち出されていませんが、南アフリカで生まれたヒッケル氏の経験にも裏打ちされた議論は、世界的なベストセラーになりました。そこで中心となる概念が、「不等価交換」と「外部化」です。
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