世界を蝕む「不等価交換」と「外部化」とは何か? 資本主義を乗り越えた先にある「脱成長」の社会

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グローバルサウスの労働者たちは、単に生活に必要な賃金のレベルが先進国に比べて低いだけではなく、農村部から出稼ぎに出ることが多いため、たとえクビになっても食い扶持があるという意味で、完全なプロレタリアートではなく、「半プロレタリアート」です。だから、彼らに対しては、本来払うべき賃金よりもさらに安い賃金しか支払われません。

また、労働者たちの賃金を抑えるだけではなく、それに付随して、さまざまなエネルギーや資源、土地などがグローバルノースのために徹底的に利用されています。その土地の養分や、生産に必要な資源もすべて奪うのです。

そして、その資源を使って、先進国は付加価値の高い車やパソコンなどを製造し、それを、グローバルサウスに高値で売りつける。これが、不等価交換です。まさにこのような不等価交換こそが、グローバルノースにとって、経済成長するための条件だったのです。

その際、グローバルノースは、依然としてある種の植民地支配を続けています。繁栄は、貨幣、資源やエネルギーなどのレベルでも、かなり不均等なフローに基づいているからです。

問題を不可視化する「外部化」

ここでさらに問題になるのが「外部化」です。

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例えば、フィリピンでバナナを作るために大量の農薬を散布しています。そのために現地では公害や環境汚染が起きる。でも、バナナを食べる我々は、環境負荷をフィリピンに押し付けています。その結果、被害はグローバルノースからは不可視化されている。これが、外部化の問題です。

不可視化されている人々の暮らしや環境問題などは、常に外部化されていますが、不等価交換と外部化こそが、私たちの安くて便利で快適な生活の条件になっている。ドイツの社会学者ウルリッヒ・ブラントとマークス・ヴィッセンが述べるように、今も続く植民地支配のもとで、私たちの「帝国的生活様式」が成立しているのです。

もっと抜本的なシステム転換をしていかなければ、誰にとっても持続可能で公正な社会を実現することはできないでしょう。その点を考え抜くなかで、ヒッケル氏は脱成長を打ち出すようになっていくのです。

(後編に続く)
(構成:泉美木蘭)

斎藤 幸平 東京大学大学院准教授

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さいとう・こうへい / Kohei Saito

1987年生まれ。専門は経済思想・社会思想。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』堀之内出版)によって、「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。50万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)は、「新書大賞2021」を受賞。「アジア・ブックアワード」で「イヤー・オブ・ザ・ブック」(一般書部門)に選ばれた。

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