夫を亡くし「ゴミ屋敷」から追い出された妻の顛末 「汚部屋に戻りたくない」と片付けを決心した事情

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・「白物と色柄物と分けて漂白剤を使いなさい」と義母に言われた。私としては理解しているつもりなんですが?(後で洗剤の説明を受けた)

・選挙から帰ってきたら義母に「太陽落ちたから洗濯物取り込まなアカン」と言われた。それまで昼食の後片付けして、すぐに黒豆の種取る作業して、すぐ選挙行って来て帰宅したらさっきのことを言われました。その後、腹が立ったので旦那と私の部屋の机を強く叩いた。

片付けの様子(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
片付けはスムーズに進んだ(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)

家を追い出された女性のその後

女性は笑いながらそのノートをゴミ袋に捨てた。今では笑い話にできているが、当時は怒りの矛先を向ける場所がなく、自分の心の中に溜め込むしかなかった。そのため「家を出ていってほしい」という義母の言葉を、前向きに捉えている側面もある。

「ゆくゆくはこの家もあげると言われていたんですけど、こんなことになって。旦那が亡くなるってこんなに人生が狂うんだと思いました。でも、そういう人って世の中によくいるなと思うんですよ。私だけじゃない。これからどうしようかと思ったんですけど、でも解放されるんだなって。これからは自由に生きる」(女性)

作業は3時間で終了し、離れには引っ越し先に持っていくわずかな荷物だけが残った。女性が続ける。

「こんなに部屋が広かったんだって。なんでこんなにモノを増やしてしまうのかなってずっと思っているんですけど。ここを出ていっても、YouTubeで動画を残したらいつでも見られるかなと思って。ちょっと油断したときに見て、汚部屋に戻りたくないなって振り返ることができる。やっぱり、旦那といたときが一番楽しかった。(この部屋に思い出はあるけど、)どこにいても旦那のことは想える」

作業後の部屋(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
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パートナーを亡くした、子どもを亡くした、両親を亡くした、ペットを亡くした。家族の誰かを亡くしたことがきっかけとなり、ゴミ屋敷になってしまうケースは多いという。

「旦那が亡くなるってこんなに人生が狂うんだという女性の言葉は、僕らには想像ができないことだなと感じます。それでも前向きに捉えていて。新しい生活のスタートを後押しすることができて、この仕事をしていてよかったじゃないですけど、感慨深いです」(信定さん)

女性は現在、小さなワンルームにひとりで暮らしている。信定さんのもとには先日、キッチンも綺麗に保たれたモノの少ない部屋の写真が女性から送られてきた。

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國友 公司 ルポライター

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くにとも こうじ / Kozi Kunitomo

1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライターとして活動。訳アリな人々との現地での交流を綴った著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)が文庫版も合わせて6万部を超えるロングセラーに。そのほかの著書に『ルポ路上生活』(KADOKAWA)、『ルポ歌舞伎町』(彩図社)がある。

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