(第3回)従来型の海外生産は製造業を衰退させる

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 これを簡単にいえば、日本の製造業は、海外生産で安い労働力を使って安いものを作り、その結果利益が増加しない。アジア進出は製造業発展のために役立っているとはいえない。このような形態の進出が望ましい形なのか否かには、大いに疑問がある。

本来であれば、高い技術を用いて高品質の製品を製造し、高い付加価値を実現すべきだろう。しかし、現実には、低価格製品の価格競争に巻き込まれていると考えざるをえない。いわば日本製造業の劣化が進行しつつあるのだ。生産性を高めるのでなく、需要だけを追い求めている。日本企業はこれまでも利益を追求するのではなく、量的拡大のみを追い求めることが多かった。それが海外進出にも引き継がれているのだ。

ところで、09年以降の海外進出は、円高によって加速されている。また、大震災による日本経済の条件変化も、新しいタイプの海外進出を促している。こうした変化を反映して、今後の海外進出がこれまでとは異なる性質のものになることを望みたい。特に次の2点が重要だ。

第一は、低価格競争からの脱却だ。これを実現するには、アジア新興国の需要に対応するよりは、日本の需要に応えることを目的とすべきだろう。

第二は、業種が変わることだ。これまでは、海外進出は組立型の機械産業が中心だった。今後は、エネルギー消費の多い装置産業が移転することを望みたい。これは、日本に対する供給基地としての役割を果たし得るだろう。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年6月25日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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