民間企業での原発は限界、国家主導で統合的運営を--日本総合研究所理事長・寺島実郎
福島原発事故と中東情勢の混迷を受けて、日本のエネルギー政策は大きな転換点を迎えている。エネルギー問題に詳しく、5月に経済産業省「今後のエネルギー政策に関する有識者会議」委員に就任した寺島実郎氏に聞いた。
──福島原発事故で日本のエネルギー政策は転換を迫られています。
今回の事故で日本の原発安全神話は崩壊した。チェルノブイリやスリーマイルでも経験したように、原発はひとたび事故を起こせば、人間の命にかかわる重大な事態を引き起こし、長期にわたって発電停止状態が続く。それを考えれば、原発は環境に優しいとか、ほかの電力に比べコストが安いということが間違いであることは明らかだ。しかし、そんな論拠でこの問題を論じたくない。
私は原発反対論者でも、推進論者でもないが、今後の日本のエネルギー政策を考えていく前に、まず日本が原子力に関して世界でどういう立場にあるのかを考える必要がある。
原発を推進している米国、英国、フランス、ロシア、中国の5大国はすべて、軍事力としての核を持ち、平和利用としての原発という両輪で動いている。しかし日本は軍事力としての核を持たず、平和利用に徹して、原子力の技術を維持、蓄積してきた。今後、中国、韓国、台湾、ベトナムなどアジアの国々が新たな原発を次々稼働させていく中、日本がすべての原発を止めて、技術の蓄積をなくしてしまえば、原子力だけでなくエネルギーに関する発言の基盤さえ失っていくのではないか。
今回の事故は悲惨なものだが、これを乗り越え、その経験を基に平和利用に徹した原子力の技術を持つ国としてあり続けることは、たいへん意味のあることだと思う。原子力を安全に制御するための技術者養成と技術蓄積は、今後も必要だ。
では、今のままの原発推進体制でいいのか。技術維持のためなら研究者だけ育成すればいいのか。昨年、政府が掲げた電源供給の5割を原発で賄うとの目標は無理だが、20~25%程度は原発でやるという決意をし、それに見合う人材と技術蓄積をしていくのが妥当ではないか。