そんな中で、12月13日に公表された日銀短観では、幅広い業種の景況感の改善を確認することができた。大企業・非製造業の業況判断DIが+30というのは近年では記憶にないような高さであるし、大企業・製造業の+12は3期連続の改善である。
さらに中小企業・製造業は6ポイント改善の+1となったが、こちらはなんと4年9カ月ぶりのプラス圏である。思うに中小企業の業況判断が改善することは、来年春の「賃上げ」にとって極めて重要な前提条件といえよう。
企業は経済が名目で成長することの「御利益」を実感
察するに、家計部門は物価高で縮み志向になっているけれども、企業部門には明るさが見えてきた。どこでそんなギャップが生じるかというと、要は「日本経済が名目で伸びている」ことに由来するのであろう。7~9月期の名目GDPを年率換算すると、実に594兆9984億円となる。なんと「ほぼ600兆円」に達しているのである。安倍政権時代に目標に掲げたものの、すっかり忘れ去られていた数値である。
おそらく今現在、企業の中にいる人たちは、経済が名目で成長することの「御利益」を実感していることだろう。売り上げは伸びるし、今まで考えられなかった値上げもできる。賃金だって上げていいのである。とにかく経営の自由度が一気に上がる。逆に言えば、物価が上がらなかったこれまでの経済とは、なんと大変であったことだろう。
他方、名目が伸びる経済においては、企業は資材高騰や金利上昇などに伴う負担増にも備えなければならない。これまで「じっと我慢することで得をしてきた企業」にとっては、今後は試練のときということになる。「物価と賃金の好循環」が定着したあとの日本経済においては、誰もが自律的に行動しなければならないのである。
逆に家計部門においては、物価上昇による負担が生活を直撃している。何しろわれわれは、「物価が上がる」という現象の不快さを長らく忘れていた。財布の中身がどうこういう以前に、現実の商品の値段と「以前はこれくらいの値段で買えた」という「脳内価格」との落差がいちいちストレスフルとなってしまう。
しかし、これは「慣れる」しかないのであろう。言い換えれば、われわれは「昔の値段」をどんどん忘れるべきなのである。
ところが、そんな「新習慣」が定着するまでには、どうしても時間がかかる。この不満は当然のことながら政治に向かう。岸田内閣の支持率低下が問題になっているけれども、そもそも今の先進民主主義国で支持率の高い政権は、ほとんど見当たらない。世界的なインフレが止まらない中で、これは致し方ないことであろう。
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