一流選手はなぜボールが「止まって」見えるのか 大谷選手も活用する「あるアイテム」とは?

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ですが、一方で目の前のことに集中していくことが難しいと思う人もいるでしょう。あきらめることが大切だということをいくら理解していても、実際その通りに行動できるのかは別問題です。

そんなときには、アスリートも取り入れているアイテム、「ガム」を活用するのが手です。

スポーツ選手最高の契約を結んだドジャース・大谷翔平選手も、エンゼルス時代に長時間にわたる試合を、ガムを活用しながら乗り切っていました

大谷選手だけでなく、試合中に顔の映像がアップで流れるアスリートがガムを噛んでいるシーンを、皆さんも見かけたことがあるのではないでしょうか。

私の所属する順天堂大学の医学部とスポーツ健康科学部では、2020年度から、千葉ロッテマリーンズの選手たちが年間を通してパフォーマンスを発揮できるための環境づくりに協力をしています。

その取り組みのなかでも「噛むこと」はストレスの緩和や自律神経への影響など、体全体によい影響を与えることがわかっています。

選手たちはガムを噛むことで、試合に深く集中するためのメンタルを構築していったり、極度のプレッシャーや不安を、ガムを噛む行為に意識を向けることで、精神の安定に役立てているのです。

アメリカ・セント・ローレンス大学の心理学者チームが、大学生を対象に、ガムを噛んでから、あるいは噛まずに複数の認知テストを行った場合にどういった違いがでるのか、実験を行いました。

結果は、ガムを噛んだ学生の方がテストで高いパフォーマンスを残しました。

これはガムを噛んだことで、脳の血流がよくなり、咀嚼のリズムによって自律神経系の副交感神経が高まったため、自律神経が安定し、深く集中することができたといえるでしょう。

現在では一般のガムよりも硬さがあり、噛むことに注力したスポーツ専用のガムも発売されています。

こういったアイテムをスポーツの世界だけでなく、ビジネスシーンなどにも取り入れていくことで、私たちもゾーンに入りやすい状態を作っていくことができるはずです。

ゆっくりと呼吸して自律神経を整える

もうひとつ、大きな効果があるのが「ゆっくりと呼吸をする」ことです。

『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

不安や、その反対に気合が入った状態だと、交感神経と心拍数が上がってしまい、自然と呼吸は浅く激しいものになっていきます。脳に酸素も行き渡りにくくなるので、集中とはほど遠い状態になってしまいます。

そんなときに、ゆっくりと深呼吸をすれば、副交感神経が優位になり、心拍数は下がっていきます

ただし、ただ深呼吸をすればいいということではありません。ポイントは「鼻から息を3~4秒吸い、口から6~8秒吐く」ワンツー呼吸法を行ってください。

この呼吸法は、ヨガや禅などの修行にも取り入れられています。呼吸が自律神経を整え、高い集中状態を作ってくれることを、自律神経といった概念のない時代から先人は経験則として知っていたのでしょう。

ワンツー呼吸法は次のように行ってください。

(『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』より)

これで副交感神経が優位になり、自律神経のアンバランスさは解消されていきます。

先にすすめたガムとも併用しながら、高い集中力とその先にある「ゾーン」状態を呼び込めるように、この呼吸法も試してみてください。

小林 弘幸 順天堂大学医学部教授、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

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こばやし ひろゆき / Hiroyuki Kobayashi

1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。『医者が考案した「長生きみそ汁」』、『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム刊)などの著書のほか、「世界一受けたい授業」(日本テレビ)や「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(TBSテレビ)などメディア出演も多数。

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