一流選手はなぜボールが「止まって」見えるのか 大谷選手も活用する「あるアイテム」とは?

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打撃の神様とは比べものにならない話ですが、じつは私にも中学野球で似たような体験があります。

私は中学2年生のときに地区大会の最終回、ランナー3塁で、私に打順が回ってきました。でも、マウンドに立っているのは、有名高校からスカウトが来ているような好投手。最初は「四球を選ぼう」と考えました。

ところが、いいピッチャーだったのでストライクしか投げてくれません。仕方なく打ちに行くのですが、球威があるので全部ファールになってしまいます。

でも、7球くらいファールで粘っていると、だんだんとタイミングがあってきました。次の球をピッチャーが投げた瞬間、「あ、これはヒットになる」となぜか私は確信しました。バットを振りぬいたら、予感どおりにセンター前。チームはサヨナラ勝ちをおさめることができました。

もう50年も前の出来事ですが、あのときのボールの軌道も、打った感触も、今でもはっきりと覚えています。

当時は「ゾーン」という言葉は知りませんでしたが、ヒットを打った一球は、相手の呼吸と自分の呼吸が一致しているのがわかりました。私が自律神経の研究を始めた原点は、この体験にあると思っています。

普通の中学生だった私が体験しているくらいですから、ゾーンは特別な人だけのものではありません。

「あきらめの境地」に至ると自律神経は究極に安定する

人がゾーンに入れるのは、自律神経が究極の安定状態になっているときです。自律神経が安定をしているので血流は良くなり感覚も鋭くなる――だからいつも以上の力を発揮できるのです。

ゾーンに入るために重要なのが「あきらめる」ことです。

目の前のことをあきらめるというネガティブな意味ではなく、目の前にあること以外のすべてを「あきらめて(忘れて)」集中するのです。

ボールが止まって見えた川上さんは、スランプに陥っている現状を忘れて、球を打ち返すことだけに集中したため、ゾーンを会得できたのだと考えられます。

かくいう私も、四球で出ることをあきらめて、投げられた球を打ち返すことだけに集中したから、ゾーンに入ることができたのでしょう。

実際の生活に置き換えてゾーンについて考えてみましょう。

たとえば、どうやっても間に合わないような量の仕事を振られることがあると思います。

大量の仕事を目の前にすると、

「締め切りに間に合わなかったらどうしよう」「量をこなせても質がともなわないだろうか」「家に帰れるかな……。家族に迷惑をかけるかもしれない」

こんな負の感情が浮かんできます。

こういった悩みや迷いを抱えたままでは、ゾーンに入ることはできません。悩みや迷いは自律神経を乱れさせるからです。

まずは「目の前の仕事をこなすだけ」と開き直ることが大切です。

コツコツと仕事を進めているうちに、時間も周囲の雑音も悩みもまったく気にならなくなる「ゾーン状態」になるでしょう。そうなったら驚異のスピードで仕事が進んでいくはずです。

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