カドカワ本発売中止も…LGBTQ炎上論争の現在地 2023年の議論から展望する、日本の性的マイノリティ受容性

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現時点では、ジェンダーの多様性を受容することの重要性は理解しつつも、既存の社会秩序が揺らぐことは受容しがたい――というのが、多くの日本人が共有する「空気感」のように思える。

日本は今後どう受容していくか

コロナになる直前、筆者はヨーロッパやオセアニアを長期で貧乏旅行したのだが、宿泊したドミトリーは全て男女同室だった。ニュージーランドに至っては、トイレも男女共用が主流となっていた。もちろん安宿なのでコスト上そうなっている面もあるのだろうし、リスク管理上の観点からは万全とは言えないが、我々が男女別が当然だと思っているものが、必ずしもそうではなかったり、場合によっては一緒になる可能性もあることに気付かされた。

韓国にあるだれでもトイレ(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

また歴史を振り返ってみると、日本は海外と比べても性的タブーが比較的少ない国であったともいえる。諸説あるところだが、明治時代に入って西洋文化が取り入れられるまでは、同性愛は必ずしも特殊な思考とは見なされてこなかったとの指摘もあり、風呂も男女混浴が一般的だった。現在に至っても、文学、マンガ・アニメ、舞台芸術において、多様な性のあり方が描かれ続け、多くの人々から自然に受け入れられている。

さまざまな見方はあるだろうが、歴史的、文化的に見て、日本には性的指向の多様性を受容していく土壌はあるのではないか。社会面、制度面でも、乗り越えられる障壁もあるように思える。

【2023年12月18日追記】表記に誤りがあり修正いたしました

いまの日本は過渡期にあることと、海外のLGBTQ運動の潮流に急速に(ときに拙速に)追随しようとしていることから、思いがけぬトラブルが起きたり、かえって激しい反発を生んでいるという側面もあるかもしれない。

日本における「空気感」は明らかに変わりつつある。欧米のような、抑圧に対する抵抗、権利の主張という形ではなく、この「空気感」が変わっていくことでLGBTQの存在は、今後じわじわと社会に受け入れられていくのではないかと筆者は考えている。

このたびのKADOKAWAの書籍についても、多様な意見を参照できる状態を作ったうえで、望ましい将来像を模索したほうが建設的であったと思う。

西山 守 マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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にしやま まもる / Mamoru Nishiyama

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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