「脂肪」は私たちの健康の敵ではないといえる根拠 分子生物学者が三大栄養素を化石燃料に例えてみた
私たちの身体に蓄積される脂質のことを特に脂肪と呼びます。飽食の時代とも言われる現代、先進国では脂肪が健康の敵のように扱われがちです。最先端の科学雑誌ですら、ダイエット(脂肪を減らすことや蓄積させないこと)に関する論文が頻繁に掲載されています。
優秀な分子である脂肪がこのような扱いを受けていることに、生物学者として一抹の寂しさを覚えざるをえません。
脂肪は敵ではない
私たちの身体が脂肪を蓄積させる最大の理由は、そのエネルギー効率の高さです。タンパク質と炭水化物は1gあたり約4kcalのエネルギーを発生させることができますが、脂肪に関するその数値はその2倍以上、約9kcalになります。
同じ体重を持つ生物個体AとBがいて、AとBの間に生存競争があったとしましょう。
その場合、BがAの2倍以上のエネルギーを持っていて、それ以外の条件が同じであるならば、Bが勝利します。これが、脂肪が優れたエネルギー分子だと言える所以です。
脂肪が優秀である別の理由は、脂肪の主成分である脂肪酸の活用法にあります。脂肪酸は方向性を持つ細長い分子です。
一方の端から他方の端まで長さのある分子と考えてください。ミトコンドリアにおいて、エネルギー源として用いられるのは尾の先っぽの部分だけです。使われる際、そこが切り取られ、その部分はアセチルCoAという分子に変化し、ミトコンドリア内で行われるエネルギー産生の代謝反応に加わります。
面白いことに、切り取られた残りの脂肪酸は、切断面から化学反応が起こり、再びエネルギー源として利用できる部位が形成されます。
つまり金太郎飴のように、脂肪酸は切っても切ってもエネルギー源として利用できる部位が出てくるというわけです。
この特有の反応をβ酸化と呼びます。βは炭素の位置を示すもので、脂肪酸では、切っても切っても、長さが続く限りβの位置にあたる炭素を含む末端が出現します。このような脂肪酸を主成分とする脂肪は使い勝手がよく、優れたエネルギー源となるのです。
エネルギー効率が圧倒的に高く、使いやすいため、生物進化の過程で脂肪がエネルギー源に選ばれたのは自然なことと言えます。脂肪に対する理解とその価値を再評価することで、より健康的な視点を得ることができるのではないでしょうか。
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