スカイツリーの下、深夜0時に開く謎の食堂の正体 気がつけば営業64年、82歳店主の自由すぎる運営

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さらに変わっているのはその営業時間だ。深夜0時から14時まで。あたりの商業施設からは灯が消え、人々がそろそろ寝静まろうかという真夜中に、キクヤ食堂の1日は始まるのである。

ノスタルジックな光景が広がる店内(写真左:著者撮影)壁に掛けられた古時計。帆船のポスターはご主人の趣味(写真右:著者撮影)

店内は古き良き食堂といった趣。壁には、針が止まった古時計が掛けられたままになっている。これは、昔店を建て替えた際に周辺の商店から寄贈されたものだという。八百清、銚子屋、遠藤豆腐店……と寄贈してくれた店の屋号が刻まれているが、これらの店は、今はもう姿を消してしまった。

ピリリと辛い、出汁が利いたカレー

食事メニューはカレーがメインだ。

「うちはね、インターネットで検索するとカレーの店って出てくるの。今はみんなインターネットでしょう。だからね、初めて来るお客さんは、みんなカレーを注文するんだよ」

カレー300円。とろみのあるルウが食欲をそそる(写真:著者撮影)

名物のカレーは、実家のカレーのような素朴な佇まいだが、意外にもピリリと辛い。添えられた赤い福神漬けがまたいい。出汁が利いた奥深い味わいで、豚肉や人参、玉ねぎ、キノコと大きめに切られた具材がゴロゴロ入っており、一皿で心地よい満足感がある。別メニューのハムエッグは700円(※2023年10月取材時点の価格。値段は変更される可能性もあります)なのに対し、カレーは300円と不思議な値段設定。理由は手間の違いだという。カレーはまとめて作り置きしているからこそ、この値段で提供できるそうだ。

「辛いのがいいっていう人が多いんだよね。そういう人にはもっと辛くできるよ」

キクヤ食堂では、料金を払って好きな酒を持ち込むのも可能だ。1.8Lの酒の持ち込みで2000円。この場合、水や氷、ウーロン茶はサービスで付いてくる。

「昔は焼きそばとかラーメンとかいろいろ作っていたけれど、女房が死んで1人でやるようになってからカレーを専門にしたの。1人でやるにはそれが一番だから。今は自由にやらせてもらっているよ」

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