孫泰蔵「将来のため勉強せよと教えるのは問題」 学校教育で才能を育てられない時代にできる事
孫:僕が興味があるのは「環境デザイン」なんです。まさに佐宗さんが実践している領域ではないかと思うのですが、クリエイティブな発想や取り組みがどんどん誘発されるにはどんな環境のデザインがなされるべきなのか、というテーマをずっと考えていて。評判を聞いてはあちこち出かけ見に行ったり、人に会いに行ったりしているんです。
たまに「教育の専門家が集まるカンファレンス」に呼んでいただくこともありますが、登壇はほぼすべてお断りしています。
なぜあの街には ”才能”が集まるのか
佐宗:合点がいきました。僕の会社の名前、ビオトープは「命(BIO)の場(TOPE)」という意味なのですが、まさに「新しいものを生むエコシステム」の環境設計を目指しているんです。何をしたいか、何を実現したいかというゴールは人それぞれ違っていい。むしろ、多様性の生態系が広がる環境が理想ではないかというイメージがあります。
孫:そうそう。例えば、僕が注目している環境の1つが、スペインにあるサンセバスチャンという小さな町。人口18万人という小規模なエリアにもかかわらず、ミシュランの星を獲得したレストランが何十軒とひしめき合っているんです。なぜサンセバスチャンの料理人のレベルはそんなに高いのか。なぜハリウッドにはエンターテインメントの才能が集まるのか。なぜシリコンバレーには……。新しいものがどんどん生まれる環境の共通項にすごく興味がありますね。
佐宗:面白いですね。共通項は見つかりましたか?
孫:1つ、明確に言えるのは「オープンソース的思考」があることです。サンセバスチャンを例にとると、スペインで初めてミシュランの星を獲ったシェフがたまたまこの町に店を構えていて、町内の若手シェフに向けて自分のレシピを全部公開したんだそうです。「これよりうまい料理を作ってみろ」と。秘伝のレシピを受け取った若手シェフたちは喜んでまねをして、「なるほど。こうやって作るのか。ちょっとアレンジしてみよう」と自分のレシピ開発に応用していった。星付きのレシピがベースだから当然美味しいし、評判は上がりますよね。すると、今度は「自分も教えてもらったんだから公開しないわけにはいかないよな」と、質の高いレシピのシェアの輪が急速に広がっていった。