孫泰蔵「将来のため勉強せよと教えるのは問題」 学校教育で才能を育てられない時代にできる事
孫:一方で、最先端のAIを教育に活かす「EdTech」という領域も生まれているわけですが、「AIで1人ひとりの能力に合った学習プログラムを開発します」と、現行の教育を助長するだけの構想をプレゼンされても、まったく響かない。極端なことを言えば、怒りさえ覚えるほどでした。そんなことよりも、子どもが本来持つクリエイティビティを引き出して、応援できる環境づくりこそ、社会が担うべき役割じゃないか。僕なりにそう考えて、VIVITAのような活動を続けてきたんですね。
そうやって試行錯誤しつつ手を動かしながら、僕の中にある問題意識をしっかり掘り下げて言語化・理論化していきたいなという思いもずっとあったんです。コロナ禍でステイホームになったことをきっかけに、「探究」に多くの時間を使えるようになって、その一部を若者にも伝えようと書き下ろし・編集したのが『冒険の書』なんです。
佐宗:なるほど。泰蔵さんの問題意識は、僕のそれと近いかもしれないなと思いました。AIの進化が加速する時代に、わが子に教えるべきことは何なのかのそもそも論を、2015年頃から真剣に考えるようになりました。僕なりの結論としては、AI時代にこそ、自分を主体に「やりたいこと」をイメージし、そのイメージを持ち続けられたり、手を使って形にしてみたりする力が重要になるんじゃないかと。『じぶん時間を生きる』という本の中で言語化した<じぶん時間>とは自分の主観に向き合い、育てる時間のことなんです。これからは身体性を磨ける体験がより重要になるのではないかと、自然豊かな環境での暮らしを通じて実感を強めているところです。
孫:とても大事ですよね。同感です。
KPIの罠──数字で子どもの成長を見てしまう
佐宗:自分なりの理想をイメージして選んだ軽井沢での暮らしや教育は、僕にとってすごく新鮮で、娘や息子の表情も明らかに変わりました。やっぱり子どもはあっという間に順応しますね。その反面、大人においては「常識との戦い」が至るところで生じるんです。つい数字や形で現れる成長を確かめたくなったりして、無意識に「KPIの罠」にとらわれる自分に気づかされます。
泰蔵さんはいろいろな教育の現場を見てきたと思うのですが、とくにどんな点に注目してその良し悪しを見極めるのでしょうか?
孫:うーん、こういう答えをすると身も蓋もないんですが、僕は「学校教育」そのものには興味ないんですよ。
佐宗:そうか。学校教育という狭義の学びに限定していないんですね。