美容院が苦手な子も気持ちよく髪が切れるように 発達障害の子ども一人ひとりの特性に寄り添って
――カットに取り組む際はどんなことを大切にされているのでしょうか?
まず子どもの不安をすこしでもやわらげることに注力しています。お子さんそれぞれに特性があり、不安を感じる点は異なるのですが、1つ共通していることがあるんです。
それはどの子も、「自分が美容室・理容室でどんなことをされるかわからない」という不安を抱えているということです。これは定型発達の子どもにもある不安ですね。どんな場所なのか、どんな人がいるのか、どんな道具があって自分にどんなふうに使われるのか。予測が立てられないと子どもは怖いのです。逆にそうした疑問が解消し「なんだ、怖くなさそう」とわかれば、子どもは安心して店側に身を任せてくれます。だから見通しを立てることを非常に大事にしています。
でもこれはけっこう難しいんですよね。言葉で「大丈夫だよ、怖くないよ」と言うだけでは子どもの不安は解消されません。たとえて言うなら、小さな子どもに注射を打つ前と同じですね。「痛くないよ、大丈夫、大丈夫」と言われたところで、子どもは「そう言うけど、きっと痛いんだろう」と思っています。どう大丈夫なのかがわかるように段取りをつけてアプローチしなければなりません。
「スマイルカット」では利用希望のご連絡をいただいたらまず、お子さんはこれまでどうカットされていたのか、現在のようすはどうか、カット以外に苦手なことはあるかなど、親御さんへ事前カウンセリングをします。それを基にお子さんにどうやってアプローチするかを決めます。たとえば事前のカウンセリングで、「うちの子はハサミを見るだけで怖がるんです」と聞いていたら、店内に入ってイスに座ってもらってもすぐにカットには移りません。道具を見せてどう使うかを説明したり、カットの手順を示したイラストを見せたりして、工程をイメージしてもらいます。
段階的に、ステップを踏んで
そしていざハサミを使って切るというときも、最初は毛先を1回切るだけにします。そのときのようすでもうちょっと切っても平気そうなら、次は5回切ってみたりします。今お話ししたのはほんの1例ですが、このように本人のペースに合わせて段階的にカットを行なっています。
また、カットを行うなかでほかにも大切にしていることがあります。それは私自身が目の前の子どもとの関わりを楽しむということです。その大切さに気づいたのは、心理学の知見からカットのアドバイスをいただこうとある大学の先生を訪ねたときでした。
私は「スマイルカット」を始めてから発達障害の子どもへのアプローチを本などで勉強してきました。しかしその結果、「このタイプの子にはこのやり方で」と機械的に当てはめていくようなやり方に傾いてしまったんです。その先生を訪ねたのも、どういった方法を取るといいかを教えてもらいたかったからでした。しかしその先生は、「いくら理論で固めても、あなたが楽しくないと子どもに伝わるんだよ」と言ったんです。