美容院が苦手な子も気持ちよく髪が切れるように 発達障害の子ども一人ひとりの特性に寄り添って
発達障害を抱える子どもたちのなかには、ドライヤーやバリカンの音が苦手、あるいはイスにじっと座っていることが苦手なために、美容室でのカットが難しいという子がいます。障害の有無に関わらず、髪の毛を触られることに抵抗がある、知らないお店に入ることに不安を感じるという子もいます。
そうした子どもたち1人ひとりの特性に向き合い、けっして無理強いはせず、スモールステップでカットが気持ちよくできるような取り組みを、私を始めとした、全国の「スマイルカット」の講習を受けた美容室・理容室でさせてもらっています(現在全国に74店舗)。
――どうしてこの活動を始められたのですか?
ある男の子との出会いがきっかけでした。
私は「スマイルカット」を始める前、児童館で就学前のお子さんがいる親御さんへ向けて、子どもの前髪の切り方を教える「チャイルドカット講座」をしていました。そこへあるとき、小学生のお子さんを持つお母さんが来られたんです。その方は私に「息子がヘアカットできるように、協力してもらえませんか?」とお願いされました。
くわしくお話をうかがうと、息子さんは発達障害があり、じっとしていることが苦手で、3歳ごろに連れて行った美容室では暴れてしまいカットができなかったそうです。
その後訪れた3軒のお店でも美容師から「危なくてカットができない」と断られ、以来カットは自宅でお母さんがやってきたとのこと。しかし成長するにつれてカットが難しくなり、小学2年生になって、やはりほかの子と同じように美容室でカットしてもらえるようにしたいと、私に相談されたのでした。
それを受けて私は、2カ月に1回、児童館で職員の方にサポートいただきながら、その男の子のカットに向き合いました。最初は部屋を動きまわる彼の気持ちが理解できずに悩み、また安易に道具を使ってパニックにさせてしまうという失敗もしました。
「気持ちいい」その言葉に
それでもすこしずつ発達障害の知識を深め、関わり方を試行錯誤することで、しだいに私も彼も落ち着いてカットができるようになっていきました。そしてその後、お店でカットができるようになった彼に、シャンプーもしてみないかと提案し、やってみました。髪をドライヤーで乾かしていたとき、彼はつぶやいたんです。「気持ちいい」と。
その言葉はとてもうれしかった反面、私のなかには悔しさも込み上げてきました。なぜなら、「気持ちいい」という感覚を得る権利はそれまでにも彼にあったはずなのに、自分たち美容業界のほうが、その機会を失わせてしまっていたのだと気づいたからです。
だから私は、美容室へ行きづらい人たちがいる今の社会や、そのような人たちをなかなか受けいれられていない業界のあり方を変えたいと、NPO法人「そらいろプロジェクト京都」を立ち上げ、「スマイルカット」を全国の美容室・理容室へ広げていく活動を始めました。