「わたしに死ねと?」70代ヘルパーが直面した悲劇 高齢者には厳しすぎる「住まいの問題」のリアル

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ミズエさんは、もっと早く今より家賃の安い物件に引っ越しをしておかなければいけなかったのです。そうすれば家賃補助が受けられたはずです。
でも人は、先のことをそうそう考えられません。少なくとも高齢になると、多角的に物事を考えるということが苦手になるようです。

73歳という年齢でヘルパーとして働いているのは、体力的にもかなりキツイと思います。仕事を終えて家に帰れば、ただもう何も考えずに体を休めて寝るだけになってしまうのでしょう。

わたしに死ねというのですか?

訴訟の手続きに入ると、ミズエさんは「わたしに死ねというのですか?」と連絡してきました。

もちろんそんなことは、ひとことも言っていません。でも「契約を解除したので、退去してください」と書かれた訴状を読んで、ミズエさんは「もう生きてはいけない」と思ったのかもしれません。

長年住み続けてきたのですから……。そういいますが、賃貸物件の場合、家賃を払わない人に部屋を貸し続けることはできないのです。家主だってビジネスで賃貸経営をしているのですから、家賃を払ってもらえないなら、退去してもらってきちんと払ってくれる人に借りてもらいたい、そう考えるのは当然のことです。

ミズエさんは、法廷では急に弱気になって「ほかの部屋を借りられないし……」と言い出しました。裁判官も同情的にはなりますが、払えない以上、仕方がありません。

たまたまミズエさんの住んでいるエリアは、低所得の方々への居住支援を手厚く行っている地域でした。そういうエリアは、明け渡しの判決書を持って行政の窓口相談に行くと、緊急性があるということで担当者も頑張ってくれることが多いのです。

ミズエさんにもその旨をしっかりお伝えして、窓口へ行ってもらいました。結果として、空いている公営住宅に入居することができました。

民間の賃貸物件は現在、高齢者になると本当に部屋を貸してもらえません。この先は日本の人口がどんどん減り、高齢者が増えてくるので状況も変わるかもしれませんが、劇的に変化するとは私には思えません。

だから目先のことだけでなく、この家賃を自分は死ぬまで払い続けることができのか、ということを考えてほしいのです。

働いている間は払えても、いつか体力的にも働けなくなるときがきます。賃金だって下がることはあっても、高齢者になって上がることは、普通はほとんどないと思います。

長期的に人生設計をすることは、本当に重要なことだと思っています。

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