「わたしに死ねと?」70代ヘルパーが直面した悲劇 高齢者には厳しすぎる「住まいの問題」のリアル

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賃貸借契約は相続の対象になるので、現在は相続人が契約を引き継いでいる状態です。家主は相続人と、この賃貸借契約を承継するのか解約するのか、そのどちらかの手続きを進めていかねばなりません。

まずは相続人探しから、私の仕事はスタートしました。

入居者は大崎さん(仮名・78歳)。内装リフォームの仕事をご自身でしていました。部屋は2DKの48平方メートル。1人暮らしには十分な広さです。この物件が新築のときから入居したので、かれこれ20年以上住んでいたことになります。

男性の1人暮らしらしく、荷物はそう多くはありません。それでも洋服が好きだったようで、たくさんの服がいたるところにつるされていました。台所もあまり使われてないようで、清掃費用は安くすみそうです。

「自分は天涯孤独だからよ」

それが大崎さんの口ぐせで、「だから人に迷惑かけないように生きていかねばならない」と思っていたとのこと。

ただ、最期のことまでは備えてはいませんでした。

賃貸物件でお亡くなりになった場合、まずはその賃貸借契約をどうするのかと、部屋の中の物をどうするのかという2つの問題があります。こればっかりは自分ではできません。

できるとするならば、自分の死後の手続きを誰かに正式に依頼しておくしかありません。これを「死後事務委任契約」といいます。

部屋を明け渡してから入院

以前、自分が末期がんということを知り、ぎりぎりまで賃貸物件で生活し、最後本当に体調が悪くなる直前に部屋を業者に依頼して空っぽにして、家主に鍵を返してあいさつし、数枚の下着を風呂敷に包んで入院し、翌日にお亡くなりになったという男性がいました。自分の火葬や納骨の費用と手続きまでお寺に依頼し、何もかもを準備していたのです。

この方は、ご自身が知人の借金の連帯保証人になったことが原因で、家族に迷惑をかけ、その結果離婚となり、その負い目がずっと心にあったようです。

わずかな収入から少しずつ娘のために貯金し、自分は慎ましく生活し、誰にも迷惑をかけずお亡くなりになりました。離婚以降、一度も会っていない娘に対して、不憫なことをしてしまったと悔いていたのかもしれません。毎月、数千円のお金が娘さんの通帳に入金されていて、胸が詰まりました。

この完璧なまでの最期は、死んでまで苦労をかけたくない、その一心だったのだと思います。こんな見事な亡くなり方、私はいまだほかを知りません。こんなこと、誰にもできることではありません。だからこそ人は、備えておかねばならないのです。

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