切らずに"治癒"目指す直腸がん「TNT」治療の全貌 欧米ではすでにスタンダード、日本でも普及へ
Watch & Waitにも課題がある。1つが治療に時間がかかるという点だ。
この治療で推奨される放射線治療は、放射線を28回当てる必要がある。土日を除いて週に5日、毎日通わなければならない。仕事や育児、介護などで通院できない人には難しくなってしまう。化学放射線療法に加えて、3~4カ月の多剤併用抗がん剤治療も必要だ(ただ、こちらは3週間に1回の外来通院で行える)。
もう1つは、肉眼でがんが消えた状態でも、実際には微小ながんが残っている可能性があることだ。
海外のデータによると、Watch & Waitした患者の約20~30%で、残っていたがんが再増大してくる(再発する)ことがわかっている。約9割は2年以内に出てくるとされることから、最初の2年間は3カ月おきに内視鏡やMRI(核磁気共鳴画像)で検査を行う必要がある。
世界的には、がんが再増大(再発)してもすぐに手術すれば、TNTが終わってすぐに手術をした人と、再発リスクに大きな差はないというデータがある。その一方で、手術のタイミングが遅れるため、肝臓や肺への転移のリスクが上がるというデータもある。
術後に便もれなどの排便障害を起こすリスクは、TNTを行わずに最初から手術をしたケースよりも高い。
日本でもTNTやWatch & Waitを標準治療へ
いずれにせよ、「治療に選択肢ができることは、患者さんにとっては望ましいこと」と秋吉医師は話す。
TNTやWatch & Waitが日本で標準治療になるには、日本の現在の標準治療と比べて遜色ない結果が得られなければならず、それを示すエビエンス(科学的根拠)が必要になる。それに関しては、現在、がん研を中心とした11施設で臨床試験が行われている。
同時に、TNTやWatch & Waitがどこでも同じようにできるルール作りも重要だ。
「現在、参加施設とオンラインで会議を定期的に行い、Watch & Waitが可能かどうかのディスカッションをしています。今後は、連携する病院に行けば同じ治療を受けられ、最後の判定も一緒に行えるよう、コンセプトを共有できる施設を全国に広げていきたい」(秋吉医師)
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