切らずに"治癒"目指す直腸がん「TNT」治療の全貌 欧米ではすでにスタンダード、日本でも普及へ
日本では、この直腸がんに対し、早期では内視鏡治療が行われる。
進行したがんでは、手術で直腸に加えて、周辺のリンパ節(側方リンパ節)まで広く切除した後、採取した病変部を顕微鏡で詳しく見る病理検査を行い、その結果によって、手術後に抗がん剤治療を行うのが、最も推奨される標準治療である。
「日本の直腸がんの治療成績は良好で、直腸がんになっても多くの方が長生きできるようになりました。それだけに、後遺症による問題が大きくなっている」
こう話すのは、消化器外科医の秋吉高志医師。そんな秋吉医師が今、「手術による人工肛門が避けられない患者さんにとって、デメリットよりもメリットが大きい治療」として注目しているのが、「TNT」という治療だ。
実は、このTNTは直腸がんの治療として海外では広く行われており、がんの再発率を下げるだけでなく、切らずにすむ可能性がある治療である。よって、術後に生じるさまざまな後遺症を防ぐことができる。
がんが体から消え、かつ後遺症も少ない。
この切らない治療を積極的に推進するため、2023年9月、がん研有明病院は直腸がん集学的治療センターを設立した。秋吉医師はセンター長として、スタッフを束ねている。
切らないがん治療「TNT」とは?
では、TNTとはどういうものなのか。秋吉医師はこう説明する。
「TNTは、Total Neoadjuvant Therapyの略語で、化学放射線療法(抗がん剤+放射線治療)の前あるいは後に、標準治療では術後に行われていた抗がん薬の多剤併用療法を行うもの(下の図、欧米の一番上)。放射線と抗がん剤の効果で、がんが小さくなります」
海外の報告によると、TNTを受けた30〜50%程度の患者で、肉眼でがんが消えた状態(臨床的完全奏効)になるそうだ。
TNT後にがんが残っていれば手術が必要だが、肉眼でがんが消えた状態になれば、再度がんが出てこないか慎重に経過を観察していく(これをWatch & Waitという)。
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