切らずに"治癒"目指す直腸がん「TNT」治療の全貌 欧米ではすでにスタンダード、日本でも普及へ
アメリカの「OPRA試験」と呼ばれる臨床試験の結果によると、TNTで治療されたステージⅡ~Ⅲの進行直腸がん患者の半数が直腸を切除せずにすんだという。
TNTの対象は、ステージⅡ~Ⅲの進行した直腸がんで、かつ肛門に近い場所にがんがあるケース。ここにがんがあると直腸を残すことが難しいから、というのがその理由だ。がん研有明病院では現在、TNT治療後に手術をしないことが積極的に望める患者に対して、手術かWatch & Waitかの選択肢を提示しているというが、「Watch & Waitを選ぶ患者さんは多い」(秋吉医師)という。
日本でTNTが主流にならない訳
TNTでは、最初に薬物療法と化学放射線療法でがんを叩いた後、様子を見て、がんが残っている人にだけ手術を行う。治療に必要な放射線機器は一般的なもので、また、化学放射線療法で使う薬も、以前から使われてきた飲み薬タイプの抗がん薬だ。
日本でも標準治療化は決して不可能なことではない。なぜ、こうしたTNTやWatch & Waitが日本で広がらないのだろうか。
その1つが、欧米ではTNTが広まるかなり以前から、術前化学放射線療法が標準治療として普及しており、TNTを導入しやすい環境が整っていた、という点だ。
ただ、そんな欧米のガイドラインにも、“Watch & Waitは十分な経験のある施設で慎重に行うべき”と書かれている。
秋吉医師は、「Watch & Waitが可能かどうかの判断には術前化学放射線療法やTNT、Watch & Waitの十分な経験が必要であり、化学放射線療法の経験が少ない施設が多い日本では、Watch & Waitを開始することはハードルが高い」と指摘する。
そして、2つめに、直腸を専門に扱う放射線治療医やがん薬物療法専門医が不足している点、3つめに、日本では化学療法や放射線治療より、手術が病院収益に大きく貢献する点を挙げる。手術数が減ってしまうと、病院の収益は大きく減ってしまう。切らないで治す医療を普及させるためには、医療システムの見直しも必要なのだ。
さらに、「我々外科医は、手術に情熱を注いできた集団です。私自身も手術をしない選択を患者さんに勧めることは、若い頃だったら抵抗があったと思います。でも、Watch & Waitで切除せずにすんだ患者さんは、本当にハッピーそうに見える。これはもう進めざるを得ないな、と」。医師のマインドセットの変革も必要だと述べる。
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