業績絶好調のメガバンク「株価が上抜けない」ワケ 最高益更新でも「PBR1倍」の壁を越えられない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「ついにPBR1倍か」。多くのメガバンク関係者が期待したが、これ以降、メガバンクを含む約4割の銀行が9月の年初来高値を超えられない。10月末に日銀が三度目となるYCCの修正を行った際も、株価は小幅上昇にとどまり、メガバンクのPBRは0.7~0.8倍台をうろついた。

「日銀の政策修正を通じた銀行業績への影響は、すでに相当程度織り込まれている」。ある証券アナリストは指摘する。メガバンク株は2022年末から50%超上昇している。これは一般論として、各社の利益水準もいずれ同程度に上昇すると期待されていることを意味する。

今回の好決算も、市場では想定の範囲内だったようだ。三井住友が株売却などで数百億円規模の特別利益を下期(2023年10月~2024年3月期)に計上することを明らかにし、みずほが下期に発表すると見られていた上方修正を上期に公表するなどサプライズこそあったが、大勢に影響はなかった。

最高利益や株主還元では投資家は動かない

反対に投資家の間では、三菱UFJは純利益の通期計画を現在の1.3兆円から1.4兆円超に引き上げるという見方があったものの、今回メガバンクでは唯一上方修正を見送った。同社が発表した4000億円もの自己株買いも、もともとは5月の決算発表時に「上限3000億円での実施を発表する」との観測が上がっていた。

欧米の金融不安を受けて、その発表が5月から延期されたことで、上期決算公表時点の自己株買い発表は、ほぼ確実視されていた。金額についても、「4000億円で及第点。むしろ3000億円では失望売りが出かねない」(市場関係者)と、ハードルはさらに上がった。過去最高水準の利益や株主還元程度では、もはや投資家は動かないようだ。

果たして、メガバンクのPBRが1倍に達する日は来るのか。PBRはROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)の掛け算で示される。つまりPBRを上げるには、資本効率を改善してROEを、または投資家の期待を喚起してPERを向上させることが必要となる。

三菱UFJは2023年度をもって現在の中期経営計画が終了するため、次期中計の目標値に注目が集まる。三井住友は2023年度から新中計が始まったものの、このほど実施した上方修正によって中計最終年度の業績目標をいきなり達成してしまうことから、来期以降の利益を上積みできるかが焦点だ。

日銀の金融政策については、「来年春の賃上げ動向を見極めたうえで、必要に応じて(マイナス金利政策を)解除するのでは」(三井住友の伊藤CFO)というのが、多くの銀行関係者の見立てだ。メガバンク各社は、現状マイナス0.1%の短期金利がゼロに戻った場合、貸出金利息の増加などを通じて粗利益が300億円程度増えると、そろばんをはじく。

ただし、「マイナス金利解除さえ投資家は織り込んでいる」(先述の市場関係者)との指摘もあり、これを材料に銀行株がどこまで買われるかは未知数だ。「メガバンクは早くから買われてきた。これからは出遅れていた地方銀行の番だ」(地銀幹部)という声もある。ネット銀を除く商業銀行としては久方ぶりのPBR1倍を達成できるのか、関係者にとって当面は歯がゆい状況が続きそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事