「私がした苦労をこの子にはさせたくないんです。年上でもいいから、経歴がしっかりしていて、高収入の男性と結婚してほしい」
20代半ばで美人のさゆりには、同い年から親子ほど歳の離れた男性まで、幅広い年齢層から驚くほど申し込みがきた。さゆりも母の苦労を見てきているので、母と同様の気持ちで、15歳離れていても、年収が高ければ見合いをしていた。
しかし、なかなか結婚にまで進める男性には、巡り会えずにいた。
芸能界は、見た目もコミュニケーション能力もずば抜けて高い人たちの集まりだ。さゆりは40代でも若々しくて魅力的な男性をたくさん見てきた。対して、一般社会の男性は、年収が高い人ほど、コミュ力に欠けた堅物が多かった。考えてみれば、年収が高くコミュ力のある男性は、結婚相談所に登録する以前に、自力で結婚しているのだろう。
お付き合いに入っても、「良い人なのはわかるんですけど、いざ結婚となると……」と言っては、なかなか前に進めずにいた。
その場の空気がどんどん悪く
そうこうしているうちに2年近くが経ったのだが、やっと“結婚をしたい”と思う男性に巡り会えた。男性は、一回り年上で、代々続く老舗の跡取り息子のしょういち(39歳、仮名)。彼は、若くて美人のさゆりに一目惚れだった。
成婚退会の際、さゆりは母親と一緒に挨拶に来た。幸せそうに微笑むさゆりの隣で母が言った。
「舅姑、大舅姑がいるところに嫁ぐのは大変でしょうけど、『同居するわけではないし、盆暮正月、ご実家に行ったときに、いい顔をすればよいのだから』と、さゆりには言ったんですよ」
まずは2人で都内にマンションを借り、しょういちはそこから実家の仕事場に通う。それは、“いきなり大家族との同居は大変だろう”という、しょういちの配慮でもあった。
しかし、そこから1カ月後。この話は破談になった。
「再び活動をしたい」と言って親子で面談に来たときに、破談になった理由を、さゆりはこう言った。
「あちらの家にごあいさつに行ったら、目の前に座ったお義母様が、そっぽを向いて、一度も私と目を合わせてくれませんでした。お義父様は、優しそうな方で話しかけてくださいましたが、お義母様の態度がひどく、結婚に反対しているのがアリアリで、その場の空気がどんどん悪くなっていきました」
そして、そこから数日後、しょういちから「母親があんなに反対するとは思わなかった。僕の代で家業を閉ざすことはできない。家は捨てられない。このまま結婚をしたら、さゆりちゃんが苦労すると思う。この話は、白紙に戻そう」と言われたという。
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