「後手に回らざるをえない台湾有事」に必要な戦略 トルコ元首相提唱「地理的歴史的深みの次元」

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ですから、アメリカは台湾では何も起きないままでいることを強く願っていると思います。でも、中国は違う。中国の国内世論は「台湾侵攻は早い方がいい」という意見が声高に叫ばれています。

私が館長を務める「凱風館」の門人で、日本企業で働く台湾の人がいま上海に出向していますが、先日一時帰国したときに、中国人の同僚たちから「もうすぐ君の国も中国の国土になるね」と笑いながらいわれるという驚くべき話をしてくれました。

政府系のメディアの世論調査によると、中国の市民の70%が「台湾を統合するために武力を行使することを強く支持する」と答え、37%が「戦争になるなら、3〜5年以内がベストだ」と答えています(O・S・マストロ「中国の台湾侵攻は近い─現実味を帯びてきた武力行使リスク」Foreign Affairs Report, 2021, No.7, p.28)。

実際にアメリカの軍事専門家も、中国はミサイル攻撃と空爆によって、台湾の主要インフラを破壊し、資源輸入を阻止し、インターネットアクセスを遮断する手段を有していると見ています。アメリカ国防総省が最近実施した図上演習では「台湾をめぐる米中の軍事衝突でアメリカは敗北し、中国はわずか数日から数週間で全面的な侵攻作戦を完了する」というシナリオが示されたそうです(前掲記事、p.30)。

ですから、台湾海峡で有事が起きるとすれば、その時期と規模を決定するのは中国政府だということです。中国のトップが「勝てる」と判断したときに軍事侵攻は起きる。アメリカも日本も韓国も、中国の決定を待つしかない。先手を打つことができない。問題が起きてから、それに対する最適解を考え始めるという致命的な「後手に回る」ことを余儀なくされている。

日本人にできることは限られている

どちらにしても、アメリカと中国というプレイヤーがどうふるまうかによって、これからの世界の行方は決まってきます。

僕たち日本人にできることは限られています。直接、両国に外交的に働きかけて彼らの世界戦略に影響を及ぼすということは日本人にはできません。日本自体が固有の世界戦略を持っていないのですからできるはずがない。できるのは、両国の間に立って、なんとか外交的な架橋として対話のチャンネルを維持し、両国の利害を調整するくらいです。それができたら上等です。

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