楽天、「自信と不安ない交ぜシナリオ」の複雑胸中 モバイル事業に明るい兆しも見えてきたが…

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楽天の試算によると、プラチナバンドを利用するために今後10年間で新たに1万を超える基地局の整備が必要となり、544億円の追加設備投資を計画しているという。

この計画に対し通信業界からは、「500億円の投資でできるとはさすがに思わない。かつてソフトバンクがプラチナバンドの割り当てを受けた際は、3年間で2兆円を投資しても、まだつながらないと言われ続けた」(ソフトバンクの宮川潤一社長)といった声も聞こえる。

楽天モバイルでは、クラウドなどを駆使した「仮想化」という新技術で通信ネットワークを構築している。必要となるハードウェア機器が少ない分、競合キャリアと比べてコストを低く抑えている。そうした違いから、楽天としては500億円強の設備投資のみでプラチナバンドを整備できるという主張だ。

しかしこれまでを振り返ると、モバイル事業への設備投資は当初掲げていた約6000億円の計画から、1兆円を超える規模まで膨らんできた。予想以上にコストがかかるといった事態に陥れば、プラチナバンドの運用開始時期も遠のきかねない。

巨額の社債償還へ依然続く「綱渡り」

というのも楽天にとって、巨額の社債償還に向けた原資の確保が目先の課題となっているからだ。モバイル事業への巨額投資のために社債発行を続けた結果、楽天が2025年までに償還を迎える社債の額は、劣後債も含めると約9000億円に達する。

11月9日には、楽天証券の株式約29%をみずほ証券へ追加譲渡し、約870億円の資金を調達すると発表した。みずほ証券の出資比率は49%にまで拡大する。

楽天はこうした借り入れや社債発行に頼らない形での資金調達に奔走しており、4月には楽天銀行を株式上場させた。楽天証券の親会社である楽天証券ホールディングスも東証へ上場申請していたが、今回のみずほ証券からの追加出資に伴い、申請を取り下げている。

市場からは「社債償還のための資金調達はまだ不十分」(証券アナリスト)との声が上がり、綱渡りの経営は依然として続きそうだ。苦しい状況を脱するためにも、赤字の元凶であるモバイル事業の黒字化が急がれるのは言うまでもない。通信品質改善のカギを握るプラチナバンドの運用に必要な投資をどう捻出していくか、バランスのとり方が悩ましいところだ。

楽観と悲観が交錯する楽天の展望。その先行きは、まだ視界不良だ。

高野 馨太 東洋経済 記者

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たかの けいた / Keita Takano

東京都羽村市生まれ。早稲田大学法学部卒。在学中に中国・上海の復旦大学に留学。日本経済新聞社を経て2021年に東洋経済新報社入社。担当業界は通信、ITなど。中国、農業、食品分野に関心。趣味は魚釣りと飲み歩き。

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