ウクライナが勝てない現実と西側メディアの虚実 メディアは即時停戦への指針を示すべきだ

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一方で、疲弊した軍隊が戦争を継続することは難しい。ウクライナに勝利する能力がないばかりでなく、ひょっとすると長く伸びた戦線を守る防衛能力もないかもしれない。兵員が足りないのである。その天王山が、北のクピアンスクとアフデフカであろう。

ウクライナのこの砦が突破されれば、ずるずると後退する可能性はある。ロシアは2022年同様厳しい冬を待っている。ウクライナがロシア側の強固な第1次防衛戦を突破したのはドニエプル川のロボチナだけだが、その近くのトクマクにロシアの兵員が増強されつつあるというニュースもある。そうなると南のドニエプル川戦線も厳しい冬を迎えることになるかもしれない。

西側メディアに踊らされたウクライナ

しかし、あきれるのは西側の政治家とメディアの問題である。さんざんウクライナ支持をあおり、戦争を西側世界のデモクラシーを守る戦争だとかき立て、強力な資金力と軍事力をもってさえすれば簡単にロシアに勝利できると思わせた責任は大きい。

ウクライナはそれに踊らされてその気になり、無謀にもロシアを挑発し、戦争に入っていったともいえるからだ。

西側のロシアに対する経済制裁は、結局効果なく終わったばかりか、むしろロシア経済は成長しているかに見える。その原因は、アメリカの経済制裁に苦しむアジア・アフリカの国々がロシア支持に回ったことにある。

BRICS諸国がロシアとの貿易をドルを使わないで行ったことで、ドル封鎖をしても効果がなくなったのである。そればかりか、ドルを使わなくとも他の通貨で国際貿易が可能だということを知ってしまったことのほうが重大である。

最初のもくろみが誤算であったことがわかりつつある中で、それまでの報道とどう折り合いをつけるのか。強いアメリカとEUというイメージの崩壊をどう食い止めるのか。ガザなどに戦線を拡大し、現在の状況を打破することに出るのか。

それとも第3次世界大戦という暴挙に出るのか。それともウクライナ戦争の停戦をし、少しでも陣地を確保することに努めるのか。この冬はその山場である。

ウクライナはアメリカの援助がなければ、戦う能力はない。アメリカの援助があってさえも、勝てないのだから、戦争継続はウクライナの人々に悲惨な結果をもたらすはずだ。

かつてナチスのヒトラーはロシア戦線の失敗をものともせず、戦い続けて敗北した。その敗北は、首都ベルリンの陥落とナチスの滅亡、そして大量の自国民や他国民の犠牲を生み出した。

そんな暴挙をゼレンスキーは行うのか。これではプーチンが批判するように、ネオナチそのものである。民主主義があるというのなら、政権を移譲しても停戦合意にたどりつき、疲弊した国家と国民を立て直すべきであろう。それには勇気がいる。  

西側のマスコミは、もうあおり続けるのをやめるべきである。冷静に戦況を分析し、しかるべき停戦合意の指針を示すことが求められる。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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