「無印良品」あえて過疎地で大型店を出した意味 無印良品はいかに「土着化」しているか(1)
えちごトキめき鉄道の直江津駅を降りると、目の前に面白い形の商店街が続く。互いの店のひさしがつながっており、ここを歩けば雪の多い日でも濡れずに買い物ができる。これは、雁木(がんぎ)造りと呼ばれ、私有地にある私物だが、どの家も長さをそろえ、誰でもこの下を自由に通れるようになっている。「おたがいさま」の精神で、それぞれがひさしと道を提供し、雪の不便を共同で解消しているのだ。
ところが、最近はこの商店街もシャッターを閉じたままの所が目立つ。長年空き家になると、そこの雁木の手入れをする人もいなくなり、ひさしが傷む。雪を防ぐ道が途切れてしまう。
「イトーヨーカ堂」撤退という衝撃
2019年、直江津の町に1つ暗いニュースが流れた。駅から徒歩10分の距離にエルマールという大型ショッピングセンターがある。その主要テナントであるイトーヨーカ堂が撤退することになったのだ。
エルマールは1987年から長い間、単なる買い物場所ではなく、住民が集う大切な地域のインフラとなっていた。この6割近くの6000㎡を占有している大型テナントが抜けるとどうなってしまうのか地元の人々は悩んだ。
1986年から大型店舗出店の規制緩和が始まり、地方都市は町おこしや再開発の一環として大型商業施設の誘致を行った。当時は大手の総合スーパーが核テナントとして入れば、集客も増え、町が栄えると誰もが信じていた。時はバブル経済の後押しで、国民総出で「何か」に投資するのは当たり前の風潮もあり、銀行も競って融資先を探していた。
ところが、こうした大型店の出店は、地方にはそれほど利益はない。地場の農家や生産者の商品はあまり扱わず、施工やメンテナンスなども「最適」な業者が選ばれるからだ。地元に増えるのは、パートの雇用ぐらいであろうか。
大手スーパーは、品ぞろえの多さや価格の安さで、元からあった地場の中小のスーパーや小売店を圧倒し、商店街も影響を受け、閉店や縮小する店も出てきた。
かつて大手のスーパーを誘致した人々は、今の日本の姿を想像できなかったのだろう。こんなに高齢化が進むとは、地方の人口が減るとは、そして大手のスーパーが次々に閉店するとは――。イトーヨーカ堂は2023年6月、3年以内に32店舗の閉鎖を発表した。
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