クマムシ研究で培われた、生きるための力 地上最強生物とそれに恋した男の話

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実は堀川氏も、このポスドク問題に頭を悩ませていたひとりだ。ポスドクとして雇用する口約束を反故されたり、「クマムシの研究やって、何か意味あんの?」と言われたりする日々。そんな中で、いつしか既存の慣習に囚われたキャリアだけではなく、経済的に自立しながら研究を行える道を模索するようになっていく。

「おもしろいことができれば、それでよい」ーーそんな研究理念に基づいて考えた抜いた結果、辿り着いた答えがクマムシグッズの作成・販売であった。愛すべきクマムシの魅力をキャラクター化し啓蒙活動を行うと共に、その売上を研究費として使うというアイデアに活路を見出したのである。

「頭脳を使って自らの道を切り開く」

そんな堀川氏は、ポスドク問題に関して以下のように述べている。

“私たち博士は、博士号を取得する過程において知的訓練を積むことで、世の中の真偽を見分けたり未来を分析する力が養われる。言い換えれば「生きるための力」が身につく。これは、国民からの税金によるサポートによって身につけた能力だ。この事実に、私たちはおおいに感謝すべきである。

それにもかかわらず、政府や世の中に対してさらなる援助を求める博士たちに対して、僕は大きな違和感を覚える。高等教育を受け、生きる力が人一倍高い博士であれば、その頭脳を使って生きていくための道を切り開いてしかるべきだからだ。”

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実際に行動を伴わせている堀川氏の発言には、説得力がある。今後、堀川氏のように、所属機関に属さない「独立系研究者」が各分野に増え、研究成果を出せる実績が生まれてくれば、学術界と社会との接点が増え、結果的に学術研究の活性化に結びつくのではないだろうか。

本書から伺える堀川氏の一連の考え方や行動力は、まさに起業家精神(アントレプレナーシップ)に基づいている。虫好きの人はもちろん、生き物にあまり興味がない人であったとしても、試行錯誤する堀川氏の研究哲学に接することで、何かしら示唆を得るところがあるはずだ。

柴藤 亮介 HONZ

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しばとう りょうすけ

学術系クラウドファンディングサイト「academist」を運営中。直近の目標は、自然科学から人文・社会科学までさまざまな学術研究の魅力が集うプラットフォームを作ること。スコッチが好き。

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