クマムシ研究で培われた、生きるための力 地上最強生物とそれに恋した男の話

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しかし、いざ蓋を開けてみると、堀川氏の研究成果に興味を示す研究者はほとんどいなかったいう。彼はこの時の自分自身の研究を、「重箱の隅を突くような研究テーマで、かつデータ量も不十分」であったと分析している。

一方、堀川氏とは対照的に、同じ日本人で初めてシンポジウムに参加した鈴木忠氏の研究成果は大好評であり、クマムシ学の大御所を含めたくさんの人が鈴木氏の論文別刷を受け取っていたそうだ。この様子を見て堀川氏が抱いた感想がまた面白い。

“鈴木さんは僕と同じく、このときの国際クマムシシンポジウムが初の参加であり、言い方は悪いかもしれないが同じ新入りである。つまり、新入りだろうが何だろうが、おもしろく価値のある研究をする人間に対しては、キャリアも国籍も関係なく、賞賛する文化がそこにあったのだ。”

研究者のポスドク問題

当時の堀川氏の研究歴はわずか2年程である。にもかかわらず、ベテランの研究者である鈴木氏を「自分と同じ初めての参加者」という枠組みで捉える度胸、そして研究文化の違いという大きな視点から驚きを感じられるこのセンスこそが、堀川氏の魅力と言えるだろう。

しかし、いくらセンスがあり、頭脳明晰であっても、経済的に安定した環境で研究を続けていくことを簡単に許さないのが、学術界の現状である。

研究者の正規雇用までの道のりは、極めて長い。まず基本的に、大学卒業後の5年間(修士課程2年+博士課程3年)は、研究者の素養を身に付けるため大学院生として研究活動に勤しむことになる。そして博士号取得後も、論文や学会発表の実績が十分でかつ各研究機関のポストに空きがない限り、正規雇用先を得ることはできない。

つまり、ほとんどの博士号取得者は、任期付の研究員「ポストドクター(通称:ポスドク)」として、各研究機関を渡り歩きながら研究を進めなければならないのだ。現在、1万人以上のポスドクが正規雇用を得られない状況にあり、これは「ポスドク問題」とも呼ばれている。

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