ウクライナで失った権威回復をガザで狙うプーチン 反アメリカの「地政学的均衡回復」はうまくいくか

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この背景には、侵攻を受けるウクライナがハマスのテロ攻撃を受けたイスラエルとの間で一種の暴力被害国同士の連帯関係を築く好機到来との計算があったのは間違いない。同時に防空兵器面で定評のあるイスラエルから軍事協力を引き出す狙いもあった。そのため自身のイスラエル訪問の実現を急いだ。

訪問については、本稿執筆時点ではイスラエル側から「今は適切な時期でない」との返答で、ペンディングのままだ。しかし、イスラエル訪問を急ぐゼレンスキー氏の前のめり姿勢に対し、ウクライナ大統領府内では懸念する声も出ている。

とくにガザでの人道状況悪化を受けて、「訪問しても大丈夫か」との危惧の声が起きた。ガザ住民の受難に配慮を示さず、国際的非難が強まっているネタニヤフ首相とのこのタイミングでの首脳会談がウクライナへの非難につながるのではないかとの懸念だ。

ゼレンスキーのイスラエル訪問はなるか

しかし、ゼレンスキー氏はウクライナにとって最大の軍事的・政治的後ろ盾であるバイデン政権に対し、イスラエル支援で追随する以外「他の選択肢はない」との判断をしているという。

だが、ガザ情勢を巡ってウクライナには他にも不安材料がある。グローバルサウスとの関係だ。先述したようにロシアがGS諸国の取り込みに力を入れることへの対抗策として、ゼレンスキー政権もこのところ、GSの取り込み外交を積極的に進めていた。

ゼレンスキー氏が提唱する和平案「平和の公式」を巡る3回目の国際会合が2023年10月末に地中海のマルタで開かれた際も、ウクライナ側は食料安保を重要議題の1つに掲げてGS側に配慮した。

結果的にGSの代表格であるインド、ブラジル、南アフリカなど過去最多の66カ国・機関の参加を実現する成果を上げたばかりだ。ゼレンスキー政権がネタノヤフ政権支持で深入りすれば、こうしたGS取り込み外交の努力が一気に水泡に帰すリスクが高まるのだ。

ロシアとウクライナがGSを巡って綱引きを行っている構図が明確に浮かび上がってきた。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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