ウクライナで失った権威回復をガザで狙うプーチン 反アメリカの「地政学的均衡回復」はうまくいくか

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ところがそこに追い風が吹いた。イスラエルの地上侵攻によってガザでの住民の犠牲が拡大し、米欧含め世界規模で、イスラエルとこれを支援するアメリカへの批判が一気に広がったのだ。パレスチナ紛争の歴史の中で、これだけ国際社会のイスラエルへの風当たりが厳しくなったのは初めてだ。

プーチン氏にとっては、願ってもない状況が生まれたのだ。一気に反米言辞のトーンを強めた。アメリカこそ、中東のみならず世界規模で紛争を起こし、利益を得ている元凶との論理を振りかざした。

元凶は「人形遣い」のアメリカ

これを象徴するのが2023年10月30日のクレムリンでの安全保障会議での演説だ。「中東だけでなく、他の地域紛争でも世界中で人々に憎悪のタネを撒き、衝突させている勢力がいる。それは地政学における操り人形遣いだ。世界の不安定化の受益者はアメリカとその衛星国だ」と決めつけた。

「操り人形遣い」と「衛星国」は、プーチン政権がウクライナ侵攻に絡み、アメリカとゼレンスキー政権を指す際に使う言葉だ。人形遣いのアメリカがウクライナ政府を思うままに操り、ロシアに敵対させているという、お得意の理屈だ。

つまり、今回のガザでの人道危機も、ロシアのウクライナ侵攻も根っこは同じで、引き起こしたのはアメリカの覇権主義的だ、という論理だ。いわば、国際法違反の暴挙であるウクライナ侵攻を、アメリカの覇権に挑む正当な行動だ、とする「違法行為のロンダリング」だと筆者は考える。

筆者はこのプーチン演説の映像を見たが、その表情に最近では見られなかった迫力を感じた。自分こそ、アメリカの一極支配体制に挑み、多極化を目指す、世界のリーダーだというのが、プーチン氏にとって最大の自負だ。表情にその高揚した気持ちが出たのだろう。

隣の主権国家への一方的侵攻によって、このプーチン氏の主張は国際社会に対する説得力を失っていたが、今回のパレスチナ情勢の出現で、再び「反米、多極化」を訴える舞台装置が整ったと、ほくそ笑んでいるに違いない。

ウクライナ侵攻でロシアを批判したのに、イスラエルのガザ侵攻を支持するアメリカは「ダブルスタンダードだ」との批判を切り札にして、米欧との「地政学的均衡」を狙うグローバル戦略なのだ。

その戦略の最大の標的はどこか。それはインド、ブラジル、南アフリカなどグローバルサウス(GS)と呼ばれる新興・途上国だ。GSには米欧が主導する国際秩序への反発やウクライナ侵攻を発端とする食料危機への危機感から、侵攻を巡り中立的立場を取る国も多い。

プーチン氏としては、GS諸国に対し、ダブルスタンダード論でアメリカへの反発をいっそう募って、その立ち位置を中立からさらに一歩ロシア側に引き寄せ、反アメリカ国家群の緩やかな形成を促す狙いだろう。

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