ゲイツ、坂本龍一…左利きには「天才」が多いのか 左利きにまつわるユニークなエピソードも
坂本龍一──左手が脇役であることに納得できなかった
世界的テクノポップバンド・YMOのメンバーであったことはもとより、バルセロナ五輪開会式で自ら作曲した「El Mar Mediterrani(地中海のテーマ)」を指揮し、高い芸術性と壮大なスケール感で会場を魅了した坂本龍一。2023年3月28日に71歳で逝去しましたが、『左うでの夢』というタイトルのソロアルバムを発表したこともある左利きでした。
生前は自身の左利きについて熱く語ることがままあった坂本。小学生の頃に出逢ったヨハン・セバスチャン・バッハの旋律が、のちの人格形成に大きな影響を与えたそうです。その旋律はほかの作曲家のものとは異なり、左手と右手を対等に用いるもので、「自由」と「反権威」への意識を覚醒させるものだったのです。
「音楽家坂本龍一さん、 未知の音探す苦しみの先(My Story)」と題された、2018年9月2日付け日本経済新聞の特集記事からコメントをひいてみます。
《主役は右手ばかり。左手はいつも脇役に追いやられていた。僕は左利きだから、これが納得できなかった。「差別じゃないか」とか言ってね。かなり生意気な子どもでした》
バッハの利き腕がどちらだったかは不明
バッハの楽曲は、複数の旋律を各々の独自性を保ちながら互いを調和させる対位法の集大成と評されます。坂本によれば、右手で奏でたメロディーが左手に移ったり形を変えて右手に戻る手法に対し、「バッハでは両方の手が同等に動き、旋律とハーモニーの境目もない。自由ってこういうことだ」(『朝日新聞』2023年4月23日)とのこと。
ちなみにヨハン・セバスチャン・バッハ自身の利き手は左右どちらであったか定かでないものの、次男のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハは左利きであったと伝えられています。生前は父親よりも有名で、クラヴィーア(鍵盤楽器)演奏の巨匠として名を馳せており、当時の聴衆は左利きならではの音色と世界観を感じとっていたことでしょう。
夏目漱石──「坊っちゃん」は左利き
右脳型人間というレッテル貼りが先行し、文学的な素養とは縁遠いというイメージで捉えられがちな左利き。だからといって左利きは文才が欠如しているわけではありません。国の内外を問わず誰もが耳目に触れる文豪のなかに、左利きないしは左利きと目される人物は確かに存在するのです。
日本における左利きと目される文豪の1人目は夏目漱石。漱石が左利きである確証となる写真などの有無はさておき、愛媛県松山での教師生活をモチーフにした小説『坊っちゃん』の冒頭に注目してみます。
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