2日の騒動は去年9月の民主党代表選に続く「O(小沢氏)K(菅首相)牧場の決闘」の第2幕だった。
菅首相は退陣承諾と引き換えに内閣不信任案否決を果たしたが、舌の根も乾かないうちに「長期続投」を言い出した。この手口は間違いなく騙し討ちである。
これを粘り腰と見るか悪あがきと見るかは意見が分かれるが、権力闘争の戦場で死線をさまよう首相を見ていて、2006年に小沢氏との代表選の後、野党時代に菅氏がインタビューで口にした言葉が浮かんだ。
「『小沢さんと争うと必ずしこりが残る。小沢さんは歯向かった者を絶対に許さない人だから、出馬はやめたほうがいい』と言われたが、私はそういう理由ではやめなかった」と語った。実際は、勝った小沢氏は、菅氏を含めてトロイカ体制を取った。
反対に菅首相は昨秋の代表選の後、「歯向かった者を絶対に許さない」という姿勢を貫く。小沢氏の処遇はともかく、挙党態勢を拒否し続けた。自民党の大島副総裁は不信任案提出の趣旨弁明で、菅首相を「徳がない」と断じ、党内をまとめ切れず首相失格に、と説いたが、首相の狭量さも権力闘争を招いた原因であることは否定できない。
今回、首相は騙し討ちで危機をすり抜けたつもりかもしれないが、国民は騙されないだろう。
鳩山前首相との確認事項の「復興基本法成立と第2次補正予算の早期成立のメド」が実現した後も菅首相が退陣を先送りすれば、「予算関連法案と引き換えに退陣」という花道論が世論となるに違いない。そこで解散を打つ手がある、と首相は考えているかもしれないが、与野党の反菅勢力を騙し討ちにしても、国民を騙し討ちにはできない。
国民の支持を得るには政策や手腕、力量以前に「信」が必要だが、騙し討ちは「背信」である。
首相の生命維持装置は、参議院を握る野党でもなければ、民主党の反菅派でもなく、国民の手の中にある。
「不徳」と「背信」の首相が居座りを図っても、支持率はあっという間に1ケタに転落するだろう。もはや政権の命運が尽きているのは疑いない。
(撮影:尾形文繁)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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