塩田潮
大問題となった原子炉への海水注入をめぐる議論を聞いていて、枝野官房長官が野党時代にインタビューで口にした言葉を思い出した。
「政権を取っておかしなことを見つけたら、見つけた瞬間に公表しなければならない。1週間とか10日とか、どうしようかとやっていたら共犯になる」と述べ、情報公開こそ「民主党政権」の最大の武器と唱えた。
その枝野氏が大震災後、政府の説明責任者として記者会見を繰り返した。おそらくほとんどは東京電力や経済産業省などから上がってきた情報に沿って説明を行ったと思われる。野党時代から情報公開について最積極派だった枝野長官には、引っかかるところがあったのだろう。記者会見で何度か「後日、検証作業が必要」と言い添える場面があった。
大震災の後、福島第一原発で何が起こり、それをめぐって、東電、経産省、原子力政策にかかわる諸機関、首相官邸、それに東電の関係金融機関や財務省などが、どんな思惑と計算に基づいてどんな対応を示したのか。
震災から2カ月半が過ぎて、マスコミの調査報道、国会審議、当事者の報告書や事情説明などで少しずつ明らかになってきた。
それにしても菅政権の実態究明への取り組みは遅く、鈍い。
この2カ月余、検証作業を主導せず、関係者の説明の食い違い、ごまかしや言い繕いを放置してきた。いまも事実関係の大部分が明らかになっていない。ドービル・サミットでも、諸外国から、日本は情報を小出しにしているという批判が噴出したという。
このままでは、情報公開を高らかに唱えてきた民主党の政権も、「政・官・民の一体構造」だった自民党政権と五十歩百歩だ。
かつて枝野氏が説いた「見つけた瞬間に公表」を実行するには何が必要か。いまや「民主党政権の独り善がりの象徴」と悪評だらけの「政治主導」こそ切り札となる。透明性の高い政治と行政の確立は、支持低迷で風前の灯の民主党政権の最後の生命線である。
それとも政権維持第一の菅首相は「どうしようかとやって共犯」という道を歩むのか。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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