崩壊している資本主義の後に来るものは何なのか 「ラグビーワールドカップ」でわかる国家の行方

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かつて、武豊騎手は「ディープインパクト病」に陥って、勝てなくなった。ディープ引退後、別のちょっといい馬に乗ると、ディープにまたがったときの感覚になってしまい、「どんなに後ろからでも届く」と勘違いしてしまい、結果「ほとんどすべて届かず、2着以下に終わる」というレースを繰り返した。

ハーツコンチェルトの調教師である武井亮師も松山騎手も、同じようにハーツコンチェルトを過信して、「大外の外」を回って「超横綱相撲」をして、負け続けている。そして、レース後に「思ったよりも伸びなかった」と言っている。

神戸新聞杯では、川田将雅(ゆうが)騎手が見事な後ろからの追い込みでサトノグランツを勝利に導いたのを見て、多くの解説者が「ありえない」「奇跡だ」と言っているのに、外を回ったことを考慮すれば、それをはるかに上回る追い込みを見せたハーツコンチェルトに「思ったほど伸びなかった」と言っているのである。

勝利のプレッシャーとは自信過剰ではないか

人間、そして、優秀な経営者、優良企業、優勝候補も、すべての失敗や敗戦は自信過剰から来る。慎重に「何があっても勝つ」という道を選んでしまう。だが、世の中は自分だけでは決まらないから、何かのちょっとした環境要因で負けてしまう。

15日に行われた秋華賞(G1)の川田騎手も横綱相撲で勝ったと言われているが、珍しくあまりに慎重に乗りすぎて、ちょっとしたレースのあやで、最後、猛追したマスクトディーヴァ(結果は2着)に足元をすくわれかねないリスクを生み出していた。

自信過剰による失敗とは、慢心ではなく、「これは確実に勝てる」という思いで、固くなりすぎることから来るのである。ゴルフをする人なら誰もが知っていることである。この現象は、必ずしも自信過剰とは世間では認識されない、勝利のプレッシャーであるが、それはやはり自信過剰と捉えるのが正しく、これは新しい行動経済学の研究テーマとなるだろう。

ということで、開き直って、挑戦者の立場になったハーツコンチェルトは菊花賞を勝つ。たぶん。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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