虎屋が古くならないのは、なぜなのか

正統派和菓子の老舗は立ち止まらない

黒川家の人間は一代に一人しかこの会社に入らないという不文律があるのも特徴です。同じ代に兄弟、家族、親類縁者は誰もおらず、現在は私のほかは息子がいるだけです。

古いしきたりでいえば、京都に毘沙門天のお像が祭ってあるのですが、代が替わる時だけ当主が一人で厨子の扉を開いて拝むというものがあります。私も父が他界した時に一人で開いて拝みましたが、次に開く時は私が死んで息子がということになります。その時にひとつの覚悟を持ち、いろいろ考えます。「この瞬間から自分の代だ。何の制約もないのだから、自分の信念に基づいてしっかりやれよという意味で社是・社訓はないのだ」と思ったことを今でもはっきり覚えています。

競争相手は和菓子業界だけではない

今回お話を伺った「株式会社 虎屋」の黒川光博社長(写真:虎屋提供)

――最近の業界の動向や消費者の嗜好に変化はありますか。

いつの時代も、和菓子は景気がよくても売り上げが急激に上がるということもないし、逆に悪くても大きく落ち込むことはない。ある意味で安定している業種です。

私は45年ぐらいこの仕事に携わっていますが、その間ほとんど変わらないと思います。では、いつも売れているかというと、今はなかなか難しい時代です。景気がいいと法人需要があるが、そうでないと減る動きが現れます。一度減るとなかなか戻らないものでもありますし、別の需要を見つけてアプローチをしなければならない変化は間違いなく出ています。

パーソナルギフトなどでは、ワインやチョコレートを持っていこうと皆さん思うでしょうから、そこにどう和菓子を使っていただけるか、そうしたことを今の時代は考えていかないといけません。景気を理由にそのまま待っていたのでは何も変わらない。競争相手は和菓子だけではなく、洋菓子であったり、ワインであったり、そうしたものとも競争になっていますし、昔よりきめの細かい商売をしなければならないと思います。

――そうした考えは商品のラインアップなどにも反映されていますか。

反映されていますね。ようかんにしても、時代とともに小さいサイズが好まれるようになっている中で、どうすればお客様に喜んでいただけるか、ラインナップの変更は、当然のことですがやっています。傾向として「甘いものが好まれなくなった」といった十把一絡げのような言い方はないと思います。若い方だってどういう形なら召し上がっていただけるか、高齢の方々にどう召し上がっていただくか。

私たちも今、高齢社会とはどういうことなのか勉強しているのですが、カップのふたが固くて開けにくい、どこから開けたらいいのかわからないといった点をどう変えていくか。どれだけ開けやすく、安全性も高いものにしていくか。高齢者の方に開けやすいものは、若い方もお子様にも、誰にとっても開けやすいものだと思います。そうしたところに私たちはいま注力しています

――最近、工夫されていることはありますか。

和菓子は四季や年中行事、人の一生とも密接に結びついているので、それらをあらためて大切にしたいと思っています。さらに日本の歳時記を見直していくのも大事だと思います。我々の世代にとって当然だったしきたりや習慣も、若い方は初めて聞いたとか、視点を変えると今の若い方には非常に新鮮に映るものもある。そういうものをこちらで見つけてアピールすることも大切です。また、和菓子はほとんど植物性の原材料で作られていますが、その訴求も意味があることだと思います。

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