「パレスチナ紛争」を語る日本人に欠けている視点 パレスチナをこんなにしたのは誰なのか

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しかし、欧米でもアラブ諸国でも、その行動が必ずしも民意を反映していないことを理解する必要があります。ソーシャルメディアの効果もあって、イスラエルの人権侵害はより大勢の人に知られるようになり、市民の意識調査でも「イスラエル離れ」が顕著になっているといえます。

実は、イスラエルの国際的孤立はもう始まっています。同じくアパルトヘイト国家であった南アフリカの方針を転換させたのは、世界各国の市民による、広範囲な国際的ボイコット運動でした。

南アの企業、そして南アと提携する他国企業がボイコットされました。最初は抵抗していた欧米主要国でしたが、市民からの圧力についに屈することになり、国際的な経済制裁へと発展しました。

日本企業に求められている視点と姿勢

南アと同じような、市民によるイスラエルボイコット運動も、国際的に展開されています。イスラエルで事業する企業の撤退が続出する中で、今回のハマスの攻撃で「パレスチナ人は決して屈しない」ことが改めて示されたと言えます。パレスチナ人の正当な権利を尊重する根本解決が図られない限り、国際的なボイコットはますます強まるものと予想されます。

日本もとくに第2次安倍政権時から、イスラエルと関係を強化しています。政府主導で「イスラエルと提携を」と進められており、レピュテーションリスクを懸念する日本の企業から私に、「占領に加担していないイスラエル企業と組めないものか」と相談が寄せられることがあります。しかしイスラエルのあらゆる企業(少なくとも日本企業と提携できる企業)や研究機関などが占領に加担しているのが実情です。

イスラエルの入植者人口は70万人で、イスラエルのユダヤ人人口の11人に1人ほどに当たります。植民地はもはや地方都市で、金融機関や商業施設など、イスラエルの主要企業がすべ事業しています。大学などの研究機関も軍隊の委託研究を多くしており、ハイテクのスタートアップも、多くが軍事技術の民間転用です。経済全体が入植政策、そして軍事と一体化しているので、日本の企業の期待と裏腹に、「クリーンなイスラエル機関」などありません。

近年「ビジネスと人権」に注目が集まり、企業が寄付活動などでなく、人権侵害に加担しない重要性が認識されるようになっています。場合によっては、イスラエルと提携する日本企業がボイコットの運動のターゲットになりうると、しかと認識する必要性があります。

高橋 宗瑠 大阪女学院大学・大学院教授(人権・平和)

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たかはし そうる / Saul Takahashi

1968年生まれ。早稲田大学卒、英国エセックス大学院にて法学修士号(国際人権法)取得。アムネスティ・インターナショナルの日本支部及び国際事務局(ロンドン)で勤務後、ジュネーブなどを経て2009年3月より2014年5月まで国連人権高等弁務官事務所パレスチナ副代表を務める。2014 年6月より英国の国際人権NGO、Business & Human Rights Resource Centre日本代表、2019年4月より現職。著書に「パレスチナ人は苦しみ続ける:なぜ国連で解決できないのか」(現代人文社)、Civil and Political Rights in Japan: a Tribute to Sir Nigel Rodley (Routledge)など。

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