「きのう何食べた?」にこんなにも情が湧くワケ 「何食べ」は令和版の「サザエさん」になった
一方、ケンジは過去最高の体重を記録し、健康診断でも気になる数値が出て、気に病んでいる。ケンジの健康のためにも、シロさんの追求する節約目標値を守るためにも、何をどこでいくらで購入したらいいか。
おりしも世の中は物価高。健康にいい白身のお魚は高く、節約しようとすると手が出せないというせちがらさ。さらに、シロさんのつとめる弁護士事務所では、彼がキャバクラ接待を受けている疑惑がもちあがり、シロさんを困惑させる。
主に経済問題を題材にした第1話は、極めて現代的な庶民感覚に満ちあふれていて、誰もが共感できた。おなじみのシロさんの手料理も、みんな大好きポテサラで、心の胃袋が十分、満たされた。筆者は翌日、ポテサラのホットサンドをランチにチョイスしてしまったほどである。
原作ファンにも敬遠されていない
『きのう何食べた?』は、男女逆転の設定で描いた『大奥』でも高く評価されている、視点の角度が鋭いよしながふみによる漫画が原作で、確たる人気を誇っているのは21巻も続いていることからも明らか。
ただ、原作人気が高ければ高いほど、映像化したとき、イメージと違うとファンに敬遠されることもあるものだ。が、『きのう何食べた?』はネガティブな反応がほぼない。西島秀俊(シロさん役)と内野聖陽(ケンジ役)という圧倒的に役や作品に奉仕する、ある種の憑依的演技を誇る2大俳優によって、丁寧に、誠実に演じられているからだ。
もともとの漫画人気と、それを損なうことのないようにという実直な制作姿勢はあるものの、テレビドラマとなると、どうしてもパイは広がる。コアからマスへ拡大された視聴者に何が愛されるか。原作を大事にしながら、できるかぎり、多くのファンに寄り添ったものをーー。
何が求められているかといえば、ささやかな日々の営みである。愛する人と2人で、穏やかな生活をする。ただそれだけ。せちがらい世の中だけど、節約も、追求すれば楽しい。料理も追求すればするほど楽しい。さらにそれが自分ひとりのためではなく、好きな人のためであることの張り合い。
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