「絶望の老年」だった秀吉が家康に魅了された真相 天下を取れど頼れる人は周囲にいない悲惨な最期

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秀吉の晩年の徳川の領地は、豊臣直轄の領地を上回っていました。もちろん貿易の収入など、領地からの収入によらない富は豊臣家に集中していましたが、それでも家康に関してはほかの諸侯とは比べ物にならないほどの厚遇です。

ここからは私の私見ですが、やはり秀吉にとって、自身の政権は正統性の薄いものだったのではないかと思われます。農民から身を起こした秀吉には譜代の家臣はおらず、臣従した諸大名は皆、同僚か敵ばかりでした。

いくら朝廷を使って官位制度で形式を整えても、戦国大名たちの心をつかむには至らなかったのではないでしょうか。信長のような圧倒的なカリスマも、織田家という組織がもともとあったから発揮できたもの。秀吉は、どちらかというと民の人気を得ることで、のし上がっていきました。

民からの圧倒的な人気だけでは政権維持は困難

しかし人気取りだけでは政権を維持できません。諸侯を信服させるのに必要だったのが徳川家康という存在でした。秀吉の政権のベースは信長です。その信長の唯一の同盟国であった家康を正式に自分に臣従させることは、信長を超えることでもありました。

家康は信長の晩年には実質的には服従してその傘下に入っていましたが、それでも体面的には同盟国のままでした。その家康が正式に自分の家臣になると表明することは、秀吉自身の権威を高めるうえで絶大な役割を果たすことになったのです。

だからこそ秀吉は、自分の妹や母親を家康に人質に差し出しても、彼を上洛させ、居並ぶ諸侯の前で自分の臣従を誓うセレモニーにこだわったのでしょう。

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