「円安は困りもの」と抑えつつ日銀が促進する矛盾 日本特有、物価と為替の「分業体制」は限界
実は、このようなバランスシートの変化をもたらす案が日銀金融政策決定会合で浮上したことがある。具体的には、2001年11月15~16日の決定会合で、中原伸之委員(当時、故人)が資金供給手段の多様化の一環として外債購入を提案したのだ。
もとより、資金供給側の手段だが、間接的には円安が進むことも企図していた。残念ながらこの案は、財務省の抵抗もあって実現しなかったが、ゼロ金利制約に直面した中央銀行として、緩和効果を高めるために、介入に近い手段が合理的な選択肢になることを示唆している。
また、介入権があれば、リーマン・ショック後にたびたび起きた猛烈な円高に対し、日銀は自然体で為替介入を講じただろう。
実際には、介入権を持たない日銀は、効果が薄いにもかかわらず、質的緩和などを繰り出した。この間、国際的には通貨安を狙った為替介入は禁じ手となり、日本は従順にこれを守ったが、代わりに日銀が不毛な緩和を余儀なくされた。円高に為替介入で対処すべき局面だったが、「金融政策が介入の代替手段になった」(当時の日銀幹部)とも言えるだろう。
「介入のため?」と日銀総裁に聞く世界の常識
さらに、為替も含めた「通貨の安定」を日銀が担えば、物価と為替のバランスを取って金融政策を運営したのは間違いない。物価2%の達成で金融緩和を続けても、結果的に生じる過度な円安が企業・家計のマインドを悪化させるなら、日銀は当然ながら後者に配慮して早めに金融緩和にブレーキをかけただろう。
金融緩和しながら、その効果である円安を自ら打ち消す介入はしない。金融緩和を打ち消す為替介入が平気で実行されるのは、判断主体が別々であり、両者を統合して判断する主体を欠いているからだ。
6月下旬、ポルトガルのシントラで行われたECB主催のセミナーで、植田和男日銀総裁は、円安について、「状況を注視する」と述べた。司会者は「介入のためか」と質した。
この質問は、為替介入権が財務省にある、という日本の常識に照らすと、非常識な質問となる。しかし、為替介入は中央銀行が金融政策の一環として実施する、という国際的な潮流に沿えば、常識的な質問だ。
日本が国際常識に沿った通貨体制なら、2022年の円安局面で円買い介入を行う前に金融政策の修正に動いていたのは間違いない。
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