懸命に運行される被災地路線バス、大船渡では車内を事務所代わりに
仙台では被災直後から路線バスが稼働
津波は沿岸部の路線バス網を壊滅させたが、都市部は復旧が早かった。仙台市では地震の直後、安全確認のため午後6時には500台ほぼすべてのバスを車庫に戻した。
当日、安全確認が取れた幹線道路に限って8時まで運行を再開。同時に雪の降る中、職員が道路の状況を確認した。
震災当日から運行計画の策定に奔走した仙台市交通局の三浦孝行・自動車部輸送課運行計画係長。津波で自宅と家族を失った。自宅の後片付けを奥さんに任せ、「公共交通である路線バスを止めてはならない」(三浦係長)と、交通局に留まった。
がれきを片付け、陥没した道路を埋めるなど地道な努力を続けた。3月28日には休日ダイヤ、4月18日には津波で全壊した沿岸部を除き、仙台市内は震災前の平日ダイヤに完全復旧した。
連休明けの5月9日に仙台市内の地下鉄の全線が再開したことで、公共交通は一部を除いて震災前の水準に戻った。ただ「震災前よりも市内各地で交通渋滞が増えており、便利な自家用車へのシフトが進んでいる。本当に公共交通に人が戻ってくるのか」と宮城交通の牧野英紀・総務部次長は不安を隠さない。
公共交通に詳しい横浜国立大学の中村文彦教授は「バスは道路事情さえよければすぐ復旧できる。これを生かした街づくりをする発想が必要だ」と指摘する。「道路にバスや緊急車両専用の通行レーンを設けること、バスの運行ルートに沿った街づくりをすることなど、自治体とバス事業者が協力した先駆的な復興計画を立ててほしい」(同)と提案する。
今回の震災でバス会社の社員は命を賭してバスを守ろうとした。彼らが守ろうとした公共交通のあり方をいま一度考え直す時期に来ている。
(週刊東洋経済編集部 =週刊東洋経済2011年5月28日号)
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