ヨーロッパ中心の近代科学史が「でっち上げ」な訳 グローバルな文化交流という忘れ去られた事実

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ほとんどの歴史家は、このパターンがそれから400年間続いてきたと論じるのが常だ。従来、近代科学の歴史はほぼ何人かの人物に絞り込まれてつづられてきた。19世紀イギリスの博物学者チャールズ・ダーウィンが自然選択による進化の理論を展開し、20世紀ドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインが特殊相対論を提唱したと。

19世紀の進化論から20世紀の宇宙物理学まで、近代科学はヨーロッパだけで築かれたとされている。

近代科学はグローバルな交流から生まれた

しかしこのストーリーはでっち上げである。本書では近代科学の起源について、それとはまったく違うストーリーをつづっていきたい。科学はヨーロッパ文化固有の産物ではなかった。つねに近代科学は、世界中のさまざまな文化の人々や考え方が一緒になることで発展してきた。

コペルニクスもその好例だ。彼が筆を執った頃のヨーロッパは、シルクロードを行き交う隊商やインド洋を渡るガリオン船によってアジアと新たな関係を築きつつあった。コペルニクスが科学研究を進めるうえで頼りにした数学的手法は、アラブやペルシアの文書から拝借したもので、その文書の多くはヨーロッパに持ち込まれたばかりのものだった。

同様の科学的交流はアジアやアフリカの至るところで起こっていた。同じ時期、オスマン帝国の天文学者たちが地中海を渡り、自分たちの持っていたイスラム科学の知識と、キリスト教やユダヤ教の思索家から拝借した新たな考え方とを組み合わせた。

西アフリカでは、ティンブクトゥやカノの宮廷で数学者たちが、サハラ砂漠を越えて持ち込まれたアラブの手稿を学んだ。東方では北京の天文学者が、中国の古典と合わせてラテン語の科学の文書も読んだ。

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